リカバリーウェアの仕組みそのものは、まったく荒唐無稽なものではありません。 人間の身体からは実際に赤外線が放出されており、特殊な繊維によって熱のやり取りを変え、 血流などに影響する可能性を示した研究もあります。
ただし、現時点では 「着るだけで誰でも疲労が回復する」ことが十分に証明されているとは言いにくい というのが、この記事を調べた私の結論です。
「なぜそう考えるのか?」が気になる方は、そのまま読み進めてみてください。
「結論は分かった。でも、9ページ全部読むのはちょっと長い……」
という方のために、「まとめQ&A」もあります!
最近、テレビでもネットでも、やたらと「リカバリーウェア」という言葉を目にする。スポーツ選手が着ている。有名な芸能人が紹介している。店に行けば専用のコーナーまである。そういえば義父も娘からプレゼントされていたな。
少し前まで、そんな服あったっけ?と思うくらい、急に私たちの生活の中へ入ってきた。しかも最近は、数万円する高級なものだけではない。ワークマンのように数千円で買える商品まで登場し、「リカバリーウェア」という言葉そのものが、一部の健康好きだけが知るものではなくなりつつある。
実際、ワークマンは2026年、リカバリーウェア「MEDIHEAL」シリーズを年間3,400万着、約500億円販売する計画を掲げている。3,400万着。ちょっとした健康グッズの話ではない。もう、一つの巨大な市場である。そして、そんな光景を見ながら、私は最近、違和感を感じていた。
なんだろう、この感じ。
流行っているというより、ものすごい勢いで「流行らせようとしている」ように見える。
テレビCMには有名人が次々と登場する。スポーツ選手、タレント、インフルエンサー。先日は、元宇宙飛行士までリカバリーウェアの広告に登場していた。

ワークマン自身も「リカバリーウェア業界No.1」を掲げ、新商品の発表会や大量生産をかなり大々的に打ち出している。もちろん、企業が商品を売るために広告をするのは当たり前だ。よく売れる商品に他社が参入するのも当たり前。だから、「広告が多いから怪しい」なんて言うつもりはない。そして、リカバリーウェアには効果がない、と最初から決めつけているわけでもない。
実際に調べてみると、遠赤外線や特殊な繊維によって血流や体温調節に変化が生じる可能性を示した研究も存在する。それでも、身体を扱う仕事をしている人間として、一つどうしても引っかかる言葉がある。
それが、「疲労回復」である。
リカバリーウェアについて調べると、よくこんな説明が出てくる。
・特殊な繊維が身体から放出される遠赤外線を利用する→
・血行が促進される→
・筋肉のハリやコリが軽減する→
・そして、疲労が回復する。
なるほど。一見すると、きれいにつながっているように見える。でも私は、この矢印を見ると少し立ち止まりたくなる。血流が良くなる。だから、疲労が回復する。本当に、そんなに単純なのだろうか。
私は普段、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師として、身体の痛みや不調、疲労を訴える人たちと接している。そこで日々感じるのは、「疲れ」というものほど、正体の分かりにくいものはないということだ。睡眠不足でも疲れる。働きすぎても疲れる。運動不足でも、精神的なストレスでも、慢性的な痛みがあっても、感染症や貧血、内分泌疾患など、病気の症状として疲労が現れることだってある。「血流が悪いから疲れている」だけでは、とても説明できない。そんな複雑な「疲労」というものが、服を一枚着て血流を少し変えることで、本当に回復するのだろうか。
そしてもう一つ。商品の説明を見ていると頻繁に登場する、「一般医療機器」という言葉。一般の人がこれを見たら、「国が効果を認めた医療用の服なんだ」と受け取る人もいるのではないだろうか。では、実際にはどんな試験をすれば「一般医療機器」として販売できるのか。血流は、どこで、どのくらい増えればいいのか。そもそも遠赤外線は身体のどこまで届くのか。というか遠赤外線って何者?
そして一番知りたいこと。リカバリーウェアを着た人は、本当に疲労から回復しているのか。気になったので、メーカーの説明、医療機器の基準、遠赤外線の作用機序、そして実際に発表されている論文を調べてみることにした。
あくまで、身体を扱う仕事をしている一人の人間の、勝手な考察である。ではまず、そもそもこの「リカバリーウェア」とは、一体どんな服なのだろう。
第1章 そもそも「リカバリーウェア」って何?
ここまで当たり前のように「リカバリーウェア」と書いてきたが、そもそもこれは何なのだろう。知らない人のために簡単に言えば、着て休むことで、疲労回復などを目的とする衣類である。ただし、「リカバリーウェア」という名前そのものが、一つの決まった医療機器を指しているわけではない。
世の中には、着心地や保温性、コンプレッションなどによって休養をサポートする衣類も含め、さまざまな商品が「リカバリーウェア」と呼ばれている。今回、私が気になっているのは、その中でも特に、「一般医療機器」として販売されているリカバリーウェアである。
正式な一般的名称は、「家庭用遠赤外線血行促進用衣」という。なげー名前だな。PMDA(医薬品医療機器総合機構)の定義を見ると、
遠赤外線による血行促進作用によって、疲労や筋肉のこりなどの症状改善を目的とする衣類で、生地には鉱物などを使った特殊な加工が施され、一定程度の遠赤外線を輻射するもの、とされている。分類としてはクラスⅠの一般医療機器である。
つまり、ものすごく乱暴に言えば、「特殊な生地を使って遠赤外線を利用し、血行を促進することで疲労回復を図る服」ということになる。そして現在、この市場にはかなり多くの企業が参入している。代表的なところを少し並べてみよう。
TENTIAL「BAKUNE」

まず、リカバリーウェアという言葉を広く知られるようにした代表格の一つが、TENTIALの「BAKUNE」だろう。たとえばBAKUNE Dryの長袖トップスとロングパンツの上下セットは、現在24,860円。一般医療機器として届け出られており、特殊繊維「SELFLAME®」を使い、身体から発する遠赤外線を輻射することで血行を促進し、疲労軽減、筋肉のこりの改善、疲労回復などを目的としている。パジャマと考えるとなかなかの値段である。
VENEX「STANDARD DRY+」

リカバリーウェアの分野では以前から知られているVENEX。定番の「STANDARD DRY+」の場合、長袖トップスが17,600円、ジョガーパンツが18,700円。上下なら36,300円になる。こちらも一般医療機器である。3万円を超える。高ぇ〜よ。普段着ならまだしも、寝るときに着る服に3万円以上か。これだけを見ると、かなり高級な健康商品という印象を受ける。
SIXPAD「Recovery Wear」

EMS機器などで知られるMTGのSIXPADも参入している。「Recovery Wear Sleep」は一般医療機器で、特殊繊維「Mediculation®」が体温由来の遠赤外線を輻射して血行を促進すると説明されている。通常価格では、長袖のスリープトップが13,200円。パンツとの上下セットなら2万円台になる。公式サイトには、かなりストレートに、「着るだけで疲労回復」という言葉も使われている。どいつもこいつも「疲労回復」だよ。この言葉については、後でもう一度考えたい。
AOKI「RECOVERY CARE+」

面白いのは、スーツのAOKIもリカバリーウェアを販売していることだ。「RECOVERY CARE+」は、身体から発する遠赤外線エネルギーを高純度セラミック繊維が身体へ輻射し、血行を促進すると説明されている。こちらも一般医療機器。現在、WEB限定の長袖・ロングパンツの上下セットなら8,990円で販売されている。ここまで来ると、手が届きやすくなってくるな。
そしてワークマン「MEDIHEAL」

さらに価格を一気に下げたのがワークマンだ。「MEDIHEAL」の代表的なルームウェアは、長袖シャツ1,900円。ロングパンツ1,900円。つまり、上下で3,800円。それでも一般医療機器として届け出られている。ワークマン自身も、これを「高価なリカバリーウェアのコモディティ化(大衆化)」と表現している。要するに、数万円していたものを、誰でも試せる日用品の価格まで下げるという戦略である。
こうして並べるとなかなか面白い。
ざっくり言えば、
- BAKUNE 約2万5千円
- VENEX 約3万6千円
- SIXPAD 2万円台
- AOKI 約9千円
- ワークマン 3,800円
もちろん、生地の質、縫製、デザイン、着心地、ブランド、研究開発費などは違うので、単純に値段だけを比べることはできない。それでも、一つ気になることがある。どれも「一般医療機器」である。3万円を超える服も。4,000円もしない服も。同じ「家庭用遠赤外線血行促進用衣」というカテゴリーに入る商品が存在している。
では当然、こんな疑問が浮かぶ。
3万円のリカバリーウェアは、3,800円のものより血流が何倍も良くなるのだろうか?
おそらく、そういう話ではない。「一般医療機器」というのは、商品の値段や効果の強さをランク付けした称号ではないからだ。このあたりは後で詳しく見ていく。もう一つ、調べていて面白かったことがある。少なくとも過去のPMDAの電子添文情報を見ると、AOKIの「RECOVERY CARE+」、SIXPADのリカバリーウェア、ワークマンの「MEDIHEAL」など、異なるブランドの商品でありながら、製造販売業者として同じファーストメディカル株式会社の名前が出てくる。
もちろん、だからといって「全部同じ商品」という意味ではない。現在は各ブランドで届出や仕様が更新されているものもあり、使われている生地や設計もそれぞれ違う。ただ、TENTIALにはTENTIALだけの謎の医療技術があり、SIXPADにはSIXPADだけの特殊な治療技術があり、ワークマンにはワークマンだけのまったく別の仕組みがある、という世界でもなさそうだ。
細かな素材の違いはあっても、多くの商品が説明している基本的な仕組みはよく似ている。
それは、
身体から出る熱を利用する→ 特殊な繊維が遠赤外線を輻射する→ その遠赤外線によって血行が促進される→ そして、疲労回復につながる。
というものだ。では、この説明。身体を扱う仕事をしている人間として考えたとき、どこまで本当にあり得る話なのだろう。次は一度疑うことをやめて、メーカー側が説明している「リカバリーウェアの仕組み」を、そのまま追いかけてみようと思う。





