第4章 「血行が良くなった」って、何を測っているの?
ここまでで、リカバリーウェアが遠赤外線を利用していること。そして、それによって血流が変化する可能性そのものは、別に突拍子もない話ではないこと。このあたりまでは分かった。では、いよいよ気になるところに入ってみよう。
リカバリーウェアの広告でよく見る、「血行促進」という言葉。これ、一体何をもって「血行が良くなった」と言っているのだろう。私自身、「血行が良くなる」と聞くと、全身の血液がよく巡る。凝り固まった筋肉にも血液が流れる。酸素や栄養がしっかり届く。そんなイメージをなんとなく持っていた。ところが、実際の基準を読んでみると、もう少し具体的だった。
「一般医療機器だから国が効果を認めた」は少し違う
まず整理しておきたいのが、「一般医療機器」という言葉である。家庭用遠赤外線血行促進用衣は、クラスⅠの一般医療機器に分類されている。PMDAの定義では、遠赤外線の血行促進作用によって、疲労や筋肉のこりなどの症状改善を目的とした衣類である。
ただ、
「一般医療機器として届出されている」=「国がこの商品の疲労回復効果を臨床試験で審査して、お墨付きを与えた」
という意味ではない。
一般医療機器は、承認制ではなく届出制である。一方で、「じゃあメーカーが“効きます”と書いて紙を出すだけなの?」というと、それも違う。現在の厚生労働省のQ&Aでは、届出を行う前提として、自主基準に沿った評価を行い、基準に適合している根拠を文書化しておくことが求められている。さらに「疲労の回復」「筋肉のこり改善」などを使用目的・効果として記載する場合には、実際にそうした症状改善につながるかを、得られたデータに基づいて専門家が評価する必要がある。
つまり、「国が一着ずつ効果を審査して承認している」でもない。「何の評価もせず、名乗った者勝ち」でもない。この間にある制度、と考えるのが一番正確だと思う。
では、実際に人に着せて何をするのか
自主基準を見ると、これが意外としっかりしている。基本的には、遠赤外線加工をした服と、その加工をしていない対照の服を用意する。同じ被験者に両方を着てもらって、血流量を比べる。特定の年齢や性別だけを対象にした商品でない場合は、男女同数で最低でも16~20例程度のデータ収集が望ましいとされている。被験者は原則として健康な成人男女である。試験室の温度は20~25℃、湿度50~70%。まず15分以上安静。その後、服を着てもらい、15分後。30分後。45分後。60分後……。
標準的には120分まで、体温、血圧、そして血流量の変化を追っていく。なんとなく、「着た人に“なんかポカポカしますか?”とアンケートを取っている」くらいを想像していたが、少なくとも基準上は、そういう話ではない。ちゃんと血流計を使う。
ただし、ここで「どこの血流?」が重要になる
血流量の測定方法には、大きく二つある。一つは、レーザードップラー血流計。こちらでは、皮膚表面から約0.5mmの深さにある組織の微小循環を測定する。
0.5mm。
ここは一度、想像してほしい。
5mmではないよ。
0.5mmな。
かなり皮膚の表面に近い。
もう一つは、超音波血流計。こちらでは、上腕動脈や下肢の動脈などの血流量を測定する。つまり、商品によって評価方法は違う可能性がある。だから、「一般医療機器のリカバリーウェアは全部、皮膚0.5mmの血流しか測っていない」という言い方は正しくない。しかし反対に、「血行促進と書いてあるから、疲労した骨格筋の血流まで増えていることが確認されている」とも限らない。これが結構大事なところだと思う。
「血流が良くなる」という言葉は、意外と大きい
例えば、腕の皮膚の微小循環が少し増えた。という話と、肩こりのある僧帽筋の血流が増えた。という話は同じではない。まして、全身の血流が良くなったとなると、さらに話は大きくなる。
「血行促進」という四文字は便利である。でも、この言葉だけでは、どこの血管が、どのくらい変化したのかまでは分からない。私はここを調べるまで、あまり意識していなかった。
そして登場する「5%」
では、加工したリカバリーウェアと、加工していない服。どのくらい血流量に差が出れば、「遠赤外線による十分な血流量の増加があった」と判定されるのか。自主基準では、未加工品に対して、加工品の血流量が5%以上増加していることが一つの判定基準になっている。
5%。
これを見たとき、私は少し考えた。
多いのか。少ないのか。
正直、この数字だけを見てもよく分からない。例えば100だった血流量が105になる。それが統計的にも生理学的にも意味のある変化なのか。
その5%によって、「肩が楽になった」「朝起きたときの疲れが違う」というところまで変わるのか。そこは別の話である。
そして、面白いことに、自主基準そのものが、その点についてちゃんと注意を入れている。基準には、
一定の血流量の増加が確認されたからといって、
それだけで直ちに、「医療機器として有効性がある」という判断にはならない、
と書かれている。
例えば「筋肉のこり改善」をうたうのであれば、実際に測定された血流量、体温、血圧などのデータをもとに、その変化が本当に「筋肉のこり改善」につながると考えられるのか、医学的な考察を加えなければならない。さらに現在の厚生労働省Q&Aでは、一般医療機器として認められる効果の範囲もかなり限定されている。
例えば、「腰痛を治す」「関節炎を改善する」「むくみを改善する」「代謝を促進する」「冷え性を改善する」「人体の深部に作用する」といった効果は、この一般医療機器の枠内では認められていない。ここは、意外と厚生労働省の方が冷静である。
では、「血流が5%増えた」から「疲労が回復した」までの間には何がある?
ここまでを整理してみよう。
遠赤外線加工をした生地である。
↓
未加工の服より遠赤外線の放射特性が高い。
↓
人に着てもらう。
↓
血流量を測る。
↓
未加工品より5%以上増えた。
ここまでは、基準として存在する。問題はこの次である。
だから、疲労が回復する。
この最後の一段。私は今回の記事で、ここを一番じっくり考えてみたい。なぜなら、血流量という測定値と、私たちが日常で言う、「今日は疲れた」は、そもそも同じものではないからだ。次は、「血行が良くなれば、本当に疲労は回復するのか?」という、一番根本的なところを考えてみよう。




