若く健康でいたいなら、やめた方がいいこと【5/5】
今日のテーマ:ストレス
5.ストレスをやめる
最後は、ストレス。ここは私の出番です。待ってました。
……と言いたいところですが、いきなり困ります。
なぜなら、ストレスをやめるなんて、ほとんど不可能だからです。
仕事をやめる。人間関係を全部切る。家事をやめる。育児をやめる。介護をやめる。住宅ローンもなくす。ついでに物価も下げる。
それができるなら、たぶん誰もストレスで悩んでいません。
なので、「ストレスをためないようにしましょう」「上手に発散しましょう」という話をするつもりもありません。
そんなことは、分かっていたら、とっくにやってるわ!という声が聞こえてきます。
今回はもう少し違うところから考えてみます。そもそもストレスとは何なのか。身体の中では何が起きているのか。そして、ストレスそのものをなくせないなら、私たちは何ができるのか。
ここを考えてみたいと思います。
そもそも、ストレスは悪者なのか
ストレスという言葉は、ほとんど悪口として使われます。
「仕事がストレス」
「旦那がストレス」
「上司がストレス」
場合によっては、人そのものがストレス扱いされています。なかなか強い言葉です。
でも医学的に考えると、ストレス反応そのものは悪いものではありません。
例えば、目の前に危険が迫った時。心拍数が上がる。血圧が上がる。呼吸が速くなる。筋肉へ血液を送り、すぐ動けるようにする。注意力を高める。身体は、今はのんびり消化している場合ではない」と判断して、生き残るために資源の配分を変えます。
この時に関わるのが、交感神経系や、HPA軸(視床下部―下垂体―副腎系)です。
HPA軸が働くと、副腎からコルチゾールが分泌されます。コルチゾールというと、「ストレスホルモンだから悪い」と思われがちですが、これも違います。
血糖を維持する。炎症反応を調節する。循環を支える。エネルギーを必要な場所へ回す。生きるうえで欠かせないホルモンです。
つまり、ストレス反応は身体の非常用システムです。火災報知器のようなものです。火事の時に鳴らない方が困ります。
問題は、火事でもないのにずっと鳴り続けていることです。
身体は「終わったこと」に気づかないことがある
野生動物なら、敵から逃げ切れば、ひとまず危険は終わります。でも人間のストレスは少し厄介です。
大切なところなのでタイトルを赤くしました。
上司に言われた一言を、家に帰ってから思い出す。
明日の会議を、寝る直前まで考える。
まだ起きてもいない出来事を、頭の中で何度もシミュレーションする。
身体からすると、現実に危険が起きている時だけでなく、「危険について考えている時」も反応することがあります。
だから仕事は18時に終わっていても、身体の仕事が終わっていないことがある。
肩には力が入っている。歯を食いしばっている。呼吸は浅い。心拍数は少し高い。胃腸も落ち着かない。ベッドに入ってからも頭は会議中。
本人は布団の中なのに、身体だけ残業しています。これはなかなかブラックな職場です。
問題なのは、ストレスがあることより「戻れないこと」
私がストレスについて大切だと思っているのは、ここです。
ストレス反応が起きること自体が問題なのではない。
必要な時に反応して、終われば元へ戻る。それなら身体は対応できます。
問題になるのは、負荷が長く続いたり、何度も何度も繰り返されたりして、十分に回復する時間がないことです。
この考え方を説明する時に、アロスタシス
そして、アロスタティック・ロード
という言葉があります。
アロスタシスとは、身体が環境の変化に合わせて、自分の状態を変化させながら安定を保つ仕組みです。
ストレス時に、心拍数を上げる。コルチゾールを出す。血圧を変える。これらも適応です。
しかし、その適応を毎日ずっと要求され続けると、身体には少しずつ「負担」が蓄積していきます。この長期的な生理的負担を説明する概念が、アロスタティック・ロードです。複数の研究では、HPA軸、自律神経系、炎症、糖代謝、脂質代謝、心血管系など、いくつもの生理システムをまたいだ変化として研究されています。
要するに、非常ベルを鳴らすことが問題なのではなく、毎日非常事態なのが問題ということです。
慢性的なストレスで身体に何が起きるのか
長期間にわたるストレスは、単に、「気分がしんどい」というだけの問題ではありません。
HPA軸。自律神経系。免疫系。炎症反応。睡眠。代謝。
さまざまなシステムに影響します。慢性ストレスが自律神経、神経内分泌、免疫・炎症反応など複数の系に影響することは、近年のレビューでも整理されています。
例えば、コルチゾール。短期的には非常に役立ちます。でもストレスが慢性化すると、単純に「コルチゾールがずっと高くなる」というだけではありません。
分泌する時間帯。ストレスへの反応性。受容体の働き。いろいろな部分の調節が変わってきます。
自律神経も同じです。交感神経が働くこと自体が悪いのではありません。運動している時にも働きます。問題は、必要がない時までアクセルを踏み続けること。です。
そして慢性ストレスは、炎症に関わるシグナルにも影響することが研究されています。急性のストレス反応には適応的な面がありますが、慢性化すると心血管・神経内分泌・自律神経・免疫系などの変化と結びつきます。
だから、「ストレスは万病のもと」という昔からの言葉をそのまま医学用語にするつもりはありませんが、あながち雑な観察でもありません。
そして、睡眠との悪循環が始まる
ストレスが強い。眠れない。眠れないから、翌日ストレスに弱くなる。また眠れない。
この循環は、かなり厄介です。
睡眠不足や概日リズムの乱れは、気分や認知機能だけではなく、代謝や免疫、ストレス応答にも影響します。睡眠不足をアロスタティック・ロードの観点から捉えた研究でも、脳や身体への長期的な負担との関係が整理されています。
そして、よく眠れない身体で翌日のストレスに対応する。
これは、充電20%のスマートフォンで一日乗り切ろうとするようなものです。
朝の段階ですでに、少し心許ない。だから私は、ストレスの話をするとき、必ず睡眠も一緒に考えます。
では、ストレスをどうやって「やめる」のか
ここまで読んだ人は、「それで、どうすればいいの?」と思うでしょう。
そこで、深呼吸しましょう。瞑想しましょう。自然に触れましょう。スマートフォンを置きましょう。という話を始めると、この記事が急に普通の健康記事になります。
もちろん、どれも悪い方法ではありません。でも今回は、そういう方法を並べるつもりはありません。
なぜなら、ストレスの原因は人それぞれだからです。そして何より、原因そのものを消せないことの方が多い。
だから私が考えたいのは、ストレスをゼロにすることではなく、ストレスを受けた身体をちゃんと戻してあげること。です。
身体から先に休ませてもいい
ストレスというと、「心の問題」として考えがちです。でも、身体にもかなり出ます。
肩が上がる。首に力が入る。顎を噛みしめる。呼吸が浅くなる。胃が重い。背中が張る。頭痛がする。眠れない。
私が治療院で見ているのは、まさにこういう身体です。
だから、気持ちを何とかしようとしてうまくいかない時、身体から先に休ませるという発想があってもいいと思っています。
頭の中の問題が全部解決するまで、身体まで一緒に緊張している必要はありません。
仕事の問題は明日考える。
でも、肩まで明日の会議に参加させる必要はない。私はそう思っています。
ここで、鍼灸やマッサージの出番です
ようやく私の仕事の話です。お待たせしました。この記事で一番大切な宣伝の時間です。
ここまでたどり着くまでに、すでに数千文字。一体どれくらいの人が、途中でスマートフォンを閉じることなく、ここまで生き残っているのでしょうか。
ここまで読んでくださった方には、もう少しだけお付き合いいただきたい。なぜなら、ここからようやく私の本業です。
ただし、「鍼をするとストレスが消えます」とは言いません。
鍼を打っても、嫌な上司は消えません。
マッサージをしても、住宅ローンは減りません。
明日の会議もなくなりません。
残念ながら、そこまでの効能は確認されていませんし、そのような研究も世界にはありません。
では、何のために鍼灸やマッサージを受けるのか。
私は、ストレスによって緊張し続けている身体を、一度休ませるためだと考えています。
鍼灸やマッサージを受ける。横になる。身体への感覚に意識が向く。肩や首の力が少し抜ける。呼吸が落ち着く。そして、何もしなくていい時間ができる。
考えてみれば、現代人にとって、「何もしなくていい時間」というのは案外ぜいたくです。
仕事をしていなくても、スマートフォンを見る。連絡を返す。ニュースを見る。動画を見る。次の予定を考える。身体は椅子に座っていても、頭の中ではずっと何かをしています。
だから治療院で、一時間横になって、身体のことだけを感じる。
あるいは、途中から何も考えなくなる。それだけでも、日常生活とはかなり違う時間です。
私は、鍼灸やマッサージの価値を、「凝った筋肉を柔らかくすること」だけには置いていません。
ずっとONになっている身体に、OFFへ戻るきっかけをつくること。
そこにも、大きな意味があると思っています。
ストレスの原因そのものは消せません。でも、ストレスを受け続けている身体まで、ずっと一緒に働かせる必要はありません。
嫌な上司は明日もいるかもしれない。住宅ローンも残っています。でもせめて今日の一時間くらい、肩と首には休んでもらいましょう。
そのために治療院を使ってもらう。私は、そういう使い方も大歓迎です。
「自律神経が整うからです」で終わらせない
治療院の説明では、「鍼灸やマッサージで自律神経が整います」という表現をよく見かけます。
私は、この一言だけでは少し物足りないと思っています。もちろん、身体への触刺激や鍼刺激が、自律神経系や心拍変動などに影響する可能性は研究されています。
例えば小規模なランダム化比較試験では、15分間のタイ式フットマッサージ後に心理的ストレスやHRVの一部指標が変化したという報告があります。もっとも、対象は26人と少なく、これだけで一般化はできません。
一方で、鍼灸やマッサージについては、施術方法。対象者。測定方法。研究の質。がかなりバラバラです。
だから、「鍼を打てば副交感神経が優位になります」と誰にでも言い切るのは慎重であるべきです。むしろ臨床では、施術後に、呼吸が楽になった。肩の力が抜けた。眠くなった。身体が軽く感じる。という変化を本人が感じることがあります。
私は、そういう反応まで全部ひっくるめて、身体を回復モードへ戻すきっかけを作るくらいの表現が一番しっくりきます。
そして、私と話すことも施術の一部だと思っている
これは論文の話ではなく、私自身が治療院をやっていて思うことです。
施術中、ずっと身体の話をしているわけではありません。仕事の話。家族の話。最近あった腹の立つ話。旅行。食べ物。どうでもいい話。いろいろします。
私は、これも案外大切だと思っています。
別に、私が名カウンセラーだからではありません。そんな大それたことは言いません。
ただ、誰かに話す。聞いてもらう。少し笑う。何も解決していないけれど、さっきより少し軽くなる。そういう時間があります。
人間は、問題が解決した時だけ楽になるわけではありません。
問題を一人で持たなくていい時間というのもあるのだと思います。
だから、身体をほぐす。
鍼をする。
そして、どうでもいい話をする。
それで少し楽になって帰ってもらえるなら、私はそれも治療院の役割だと思っています。
TRAIN clinicは、「悪くなってから行く場所」だけではなくていい
治療院というと、腰が痛い。肩が痛い。頭痛がする。何か症状が出てから行く場所というイメージがあります。
もちろん、それが本業です。
でも、私はもう一つの使い方があってもいいと思っています。
最近ずっと忙しい。身体に力が入っている。睡眠が浅い。疲れが抜けない。特別な病気ではない。でも、なんとなく身体がずっとONになっている。
そんな時に、一度身体を休ませるために来る。それでもいい。
ストレスの原因を、私がなくしてあげることはできません。でも、そのストレスを抱え続けている身体に、一時間くらい、「もう力を抜いていいですよ」という時間を作ることはできます。
私は、治療院をそういう場所としても使ってもらえたらと思っています。
ストレスを「なくす」のではなく、回復する
今回、「ストレスをやめる」というかなり無茶なタイトルをつけました。
でも最後まで調べてみて、やはりストレスそのものをなくす必要はないと思いました。
というより、なくせません。
ストレス反応は、人間に必要なものです。問題は、ずっと続くこと。
反応した後に、戻れないこと。身体も頭も、ずっと仕事を続けていること。
だから私がやめたいのは、ストレスではなく、ストレスを受けっぱなしの生活なのかもしれません。
働く。考える。悩む。頑張る。それは仕方がない。
でも、そのあとに、眠る。身体を動かす。休む。人と話す。身体を緩める。
そうやって戻る時間も必要です。
ずっとアクセルを踏み続けられる車がないように、人間にも、回復する時間が必要です。
若く、健康でいたいなら
今回、若く、健康でいるために、私自身が気をつけていることを5つ挙げました。
運動不足。お酒。タバコ。砂糖。そして、ストレス。
書き始める前は、もっと単純な記事になると思っていました。
でも調べてみると、全部、「やめればいい」という話ではありませんでした。
タバコは、私はやめた方がいいと思います。
お酒も、健康だけを考えれば飲まない方がいい。
砂糖は、ゼロにするより付き合い方を考える。
運動不足は、身体を使わない生活をやめる。
そしてストレスは、ストレスそのものではなく、そこから戻れない状態をやめる。
同じ「やめる」でも、意味はそれぞれ違いました。
結局、健康に絶対の正解があるわけではありません。
酒を飲む。甘いものを食べる。運動を休む。忙しく働く。
それで本人が幸せなら、人生としてはそれも正解かもしれません。
私は、健康のためだけに人生があるとは思っていません。
ただ、何が身体に起きるのかを知った上で選ぶことと、知らずに続けることは違う。この記事に書いたのは、禁止事項ではありません。判断材料です。
読んだ上で、「それでも飲む」なら、それでいい。
「ちょっと砂糖を減らそう」でもいい。
「明日少し歩こう」でもいい。
「そろそろタバコをやめたい」でもいい。
そして、「最近ちょっと疲れてるから、TRAINに行こう」
なら、なお嬉しい。
ここまでこの記事を読んだ人は、少なからず、何か一つくらい、本当は変えた方がいいと分かっていることがあるのではないでしょうか。
人間は、答えが分からなくて検索することもあります。
でも、答えはだいたい分かっていて、最後に背中を押してくれる理由を探していることもあります。
この記事は、そんな人の背中を、ほんの少し押すために書きました。
少々極端なタイトルになったのは、そのためです。
そして結局、最後に決めるのは、自分です。
自分で知って、自分で選んで、その結果に納得できる。
私は、それが一番健康的な生き方なのではないかと思っています。






