若く健康でいたいなら、やめた方がいいこと【3/5】
今日のテーマ:タバコ
3.タバコをやめる
今回挙げた5つの中で、これはかなり迷いがありません。お酒については、「人生の楽しみとして飲むなら、その人の選択」と書きました。砂糖についても、おそらく同じような話になるでしょう。
でもタバコについて、「健康上のメリットもあるので、上手に付き合いましょう」とは、さすがに言えません。
若く、健康でいたい。その条件を優先するなら、私は吸わない方を選びます。かなり単純です。
もちろん、依存という問題がありますから、「身体に悪いのだから、やめればいいじゃないですか」で済む話でもありません。そんなことは吸っている本人が一番よく分かっているでしょう。
だから今回は、説教ではなく、タバコを吸うと、身体の中では実際に何が起こっているのかを見てみたいと思います。
そして今回のテーマである、「若く見えるか」という観点でも調べてみました。こちらはなかなか容赦のない結果でした。
タバコは、肺だけの問題ではない
タバコというと、まず思い浮かぶのは肺がんでしょう。確かに重要です。でも、タバコの影響を「肺の話」だけで理解すると、かなり狭い。
タバコの煙には多数の化学物質が含まれ、そのうち多くに毒性や発がん性があります。
煙は肺から身体に入り、血液を通じて全身に影響します。だから喫煙は、肺がんだけでなく、心血管疾患。脳卒中。慢性閉塞性肺疾患。さまざまながん。など、多くの疾患のリスクと関係します。
CDCも、喫煙が心臓や血管を傷つけ、動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高めること、ニコチンが血圧を上げ、一酸化炭素が血液の酸素運搬能力を低下させることを示しています。
つまり、煙を吸っている場所は肺でも、困っているのは全身ということです。肺だけが後始末をしてくれるほど、人間の身体は便利にはできていません。
なぜ、タバコでがんが増えるのか
「タバコを吸うとがんになる」これは誰でも知っています。でも、なぜでしょう。
タバコの煙には、多数の発がん物質が含まれています。これらがDNAを傷つけたり、遺伝子の変化を起こしたり、細胞の正常な修復や増殖の仕組みに影響したりすることで、がんが発生しやすい環境が作られていきます。
一度タバコを吸った瞬間に、突然がん細胞が完成するわけではありません。小さな損傷が積み重なり、長い年月の中で確率が上がっていく。
だから怖い。痛くない。翌日困らない。健康診断でもすぐには分からない。そして、何十年後かに結果が出ることがある。
人間は、「今日困らないもの」にはかなり寛容です。将来の自分より、今の一本の方が近くにありますから。依存症という問題を抜きにしても、ここが生活習慣を変える難しさなのだと思います。
「タバコ顔」って、本当にあるのか
ここからは、今回の記事らしい話です。俗に、スモーカーズフェイスあるいは、「タバコ顔」という言葉があります。
喫煙歴の長い人に、深いシワ。目の周囲の変化。口元のシワ。くすんだような肌。全体として少し老けた印象。がみられる、という話です。
「なんとなく分かる」という人もいるかもしれません。でも、なんとなくでは面白くないので、本当に研究されているのか調べてみました。
ありました。
しかも、かなり面白い研究があります。
一卵性双生児で比べた研究がある
2013年、喫煙による顔の老化を調べるために、一卵性双生児を比較した研究が発表されています。一卵性双生児ですから、遺伝的には非常によく似ています。その中から、片方だけが喫煙している組、あるいは、一方がもう一方より少なくとも5年以上長く喫煙している組、79組を調べました。
そして専門家が、どちらが喫煙者なのかを知らされない状態で、顔写真を評価しました。
結果、喫煙歴の長い側では、上まぶたのたるみ。目の下の袋状の変化。頬のたるみ。ほうれい線。上唇周囲のシワ。下唇周囲のシワ。フェイスラインのたるみ。などが、より目立っていました。
さらに、喫煙期間に5年以上の差がある双生児同士でも、長く吸っていた側で目の下や頬、口元などの老化徴候がより強く出ていました。
遺伝子がかなり似ている二人でも、生活習慣が違えば、顔は少しずつ違っていく。これは、なかなか説得力のある話です。
日本人の一卵性双生児を調べた研究でも、喫煙している側で顔の肌質やシワの評価が悪い傾向が報告されています。
美容というと、どうしても、何を塗るか。何を入れるか。何を照射するか。という話になりがちです。でも、顔は生活習慣の履歴書でもあるということなのかもしれません。少々、余計なことまで記録してくれる履歴書です。
なぜ、タバコを吸うと肌が老けるのか
では、なぜでしょう。ここが今回調べていて面白かったところです。
皮膚の若さを支えているものの一つに、コラーゲンがあります。皮膚の弾力や構造を保つために重要なタンパク質です。
喫煙者と非喫煙者の皮膚を調べた研究では、喫煙者ではⅠ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンの合成が、それぞれ約18%、22%低かったと報告されています。
さらにタバコの煙は、MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)という、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを分解する酵素に影響します。
研究では、タバコ煙による酸化ストレスなどによってMMPが増え、一方でコラーゲン産生が低下することが示されています。
簡単に言うなら、作る量は減る。 壊す側は働く。皮膚としては、なかなか厳しい経営状態です。
建物でいえば、補修工事の予算を減らしたうえに、解体業者だけ元気になっているようなものです。
それで、「どうして建物が古くなったんだろう」と言われても、まあ、そうなるでしょう。
毛細血管にも影響する
そしてもう一つ。タバコと美容を考えるうえで、血管の話は外せません。よく、「タバコを吸うと血管が収縮する」と言われます。これは間違いではありませんが、実際にはもう少し複雑です。
喫煙は、血管の内側にある血管内皮の働きにも影響します。
健康な喫煙者を対象にした研究では、たった一本の喫煙後でも、皮膚の毛細血管が必要に応じて血流を増やす機能や、血管内皮依存性の血管拡張が低下しました。
別の研究でも、一本のタバコを吸った直後、皮膚の微小循環の血流が低下することが確認されています。
さらに長期喫煙者を調べると、非喫煙者に比べて皮膚の微小血管機能が低下し、その程度は喫煙量や喫煙年数と関連していました。
つまり、「血管が一瞬細くなる」だけではなく、長く吸い続けることで、血管が状況に応じて広がったり血流を調節したりする機能そのものにも影響するということです。
皮膚という組織も、酸素や栄養が空から降ってくるわけではありません。血液によって運ばれています。
皮膚の老化を考える時に、血流を無視できないのは当然でしょう。
「自律神経が乱れる」も、少し丁寧に考えたい
そして、タバコについても出てきます。自律神経。
何でも自律神経のせいにすると、私は少し警戒します。
「肩こりは自律神経」
「胃もたれは自律神経」
「眠れないのも自律神経」
「なんとなく不調も自律神経」
ここまで来ると、自律神経もなかなかの過重労働です。
ただ、喫煙については、自律神経系への影響が実際に研究されています。
ニコチンやタバコ煙への曝露によって、交感神経活動が高まり、心拍数や血圧が上昇します。
喫煙者では、心拍変動、つまりHRVが低下し、副交感神経による心臓の調節が弱く、交感神経側へ偏った状態がみられるという研究が多数あります。
最近のレビューでも、従来型のタバコや電子タバコへの曝露がHRV低下などの心臓自律神経機能の変化と関連することが整理されています。
だから、「タバコは自律神経を乱します」と言ってしまっても大きくは外れていません。
でも、もう少し正確に言うなら、喫煙は交感神経活動を高め、心臓を調節する自律神経機能に悪影響を及ぼす可能性があるということです。
「吸うと落ち着くんですよ」という人もいます。
ここが面白いところです。
「タバコを吸うと落ち着く」は、本当なのか
喫煙者の人が、「イライラした時に一本吸うと落ち着く」と言うことがあります。
確かに、本人は落ち着いたように感じます。でも、身体の中では、ニコチンによって交感神経系が刺激され、心拍数や血圧が上がる方向に働きます。
なかなか不思議です。
なぜ、身体は刺激されているのに、本人は「落ち着いた」と感じるのでしょう。
一つ重要なのが、ニコチン依存です。普段からニコチンを摂取している人では、血中ニコチン濃度が下がると、イライラ。落ち着かない。集中しづらい。などの離脱症状が出ることがあります。
そこでタバコを吸う。ニコチンが入る。離脱症状が和らぐ。すると、「タバコを吸ったらストレスが減った」と感じる。
でも見方を変えると、タバコがストレスを取り除いたというより、タバコによって作られた不足状態を、タバコで一時的に埋めているとも考えられます。
これは、喉が渇く薬を飲みながら、水を飲んで、「この水はすごく効く」と言っているような構造でもあります。
もちろん心理的な習慣や休憩行動なども関係するので、それだけですべて説明できるわけではありません。
でも、「タバコ=リラックス」というイメージは、身体の生理反応とは少し分けて考えた方がいいと思います。
美容にお金をかけるなら、まずタバコをどうするか
今回、「若くいたい」という条件をつけています。
その意味では、タバコはかなり分かりやすい。
高級な美容液。美容医療。サプリメント。フェイスパック。もちろん、それぞれを否定するつもりはありません。
でも毎日タバコを吸いながら、「肌の老化をできるだけ防ぎたい」となると、優先順位については一度考えてもいいと思います。
コラーゲンを増やしたいと言いながら、コラーゲンの合成を邪魔し、分解する仕組みを刺激する習慣を続ける。
血流を良くしたいと言いながら、微小血管の機能に影響するものを毎日吸う。これは少々、アクセルとブレーキを同時に踏んでいます。
しかも美容液の方がアクセルで、タバコの方がブレーキとは限らない。
むしろかなり強力なブレーキかもしれません。
タバコについては、「減らす」より「やめる」と書きたい
お酒の章では、人生の楽しみとして飲む選択を否定しませんでした。でも、タバコについては、私は少し立場が違います。
健康という観点だけなら、できればやめる。これが一番分かりやすい。
「一日20本を10本にしたから大丈夫」というものでもありません。
もちろん、20本から10本になること自体が無意味という意味ではありません。禁煙へ向かう途中の段階としては価値があります。
でも最終的に、「健康のための適量喫煙」という場所を探す必要はないと思います。
そんな場所は、今の医学ではかなり見つけにくい。
それでも、やめるのが難しいのがタバコ
ここまで書けば、「じゃあ、やめればいい」となります。でも、それが難しい。
だからニコチン依存症という診断があり、禁煙治療があります。
意思が弱い。根性がない。そういう単純な問題ではありません。ニコチンは脳の報酬系に作用し、依存を形成します。だから、何年も吸っている人が、健康リスクを全部理解したその日に、「分かりました。今日から一生吸いません」となれなくても不思議ではありません。
むしろ、それほど簡単なら禁煙治療という医療は必要ありません。もし本当にやめたいのにやめられないのであれば、自分の意志の強さを試す大会にする必要はありません。
医療機関の禁煙治療など、使える方法を使えばいいと思います。
若く、健康でいたいなら
タバコについて調べてみると、やはり私の結論は変わりませんでした。
がん。心血管疾患。肺。血管。自律神経。そして、皮膚。
タバコは、かなり広い範囲に影響します。特に今回面白かったのは、身体の中で起きていることが、何年もかけて顔にも現れる可能性があるということです。
シワは年齢だけで決まりません。肌の質も、血管も、生活習慣も、その人が過ごしてきた時間の一部です。
もちろん、タバコを吸っていても若く見える人はいます。吸わなくても老けて見える人もいます。人間はそんな単純な比較実験ではありません。
それでも、若く、健康でいたい。そして、自分で変えられるものの中から一つ選べと言われたら。私は、タバコは吸わない。これはかなり迷わず選びます。
美容液を選ぶより簡単です。銘柄も、成分も、口コミも調べなくていい。必要なのは、買わないことだけ。
……それが一番難しい人がいることも、もちろん分かっています。





