8月も下旬になりましたが、まだまだ気温も湿度も高い日が続いております。
毎日、涼しい場所へと避難するわけですが、暑い寒いの急な外気温の変化で自律神経に乱れが起き、様々な不快な症状が起きやすくなっています。
当院でも「寝ても疲れがなかなか取れない」と訴える方が非常に多いように感じます。
今回はそんな疲れが取れない大きな原因の一つ、「副腎の疲労」のメカニズムを説明し、その原因が鍼灸の力で緩和できるということを最新の文献からご紹介したいと思います。
ストレスと副腎の関わり
副腎とは腎臓の上にちょこんと乗っている臓器です。
西洋医学には副腎疲労症候群という概念があるのですが、これはHPA軸の機能障害と言われています。
急に難しい言葉が出てきましたが簡単なので焦らないでください。
HPA軸とは、人がストレスを受けた時に起こる生理的なストレス反応のことで、下の図のようにホルモンが連鎖して、最終的には副腎皮質からコルチゾール(俗にいうストレスホルモン)が分泌され、血流を巡って全身に作用し、ストレスから体を守っています。
HPA軸が活性化(つまり活発になる)すると、血糖値や血圧の上昇、免疫機能の抑制などの生体防御機構が働きます。
つまり体が危険や脅威に対処するモードとなるのです。
分かり易い例で言えば、山で熊と遭遇した時です。
こんな時、生命に危険を感じるの当たり前ですよね。その際にコルチゾールがドバドバと出てくるわけですが、私たちの日常では熊と遭遇しなくとも、同様にコルチゾールは分泌されているのです。
(他にもSAM軸といったHPA軸よりも早い反応でストレスを回避するシステムなども備わっていますが今回は省きます。)
人間関係や仕事のプレッシャー、心配や不安、恐怖、怒りなどがあればコルチゾールは分泌されます。身体的にストレスがかかる場合も同様です。先に述べた外気温の急な変化や慢性的な痛みを感じている場合もそうです。
ここでのポイントは、人はストレスホルモンが分泌される際に、実際に肉体的に脅威となっているのか、もしくは想像上で脅威と感じているかの区別ができないということです。
両方ともで同じようにHPA軸は活性化するのです。
つまり「その遭遇した出来事が自分の対処能力を超えた脅威であると感じる時」にストレス反応が起こるのです。
皆さんは、仕事や日常で思い当たる節はありませんか?
そのような場面は毎日のように遭遇しますよね。
責任感の強い性格の人や、管理職の人、心配性の人なら尚更です。
では、コルチゾールが慢性的に分泌されるのは、なぜ良くないのでしょうか?
副腎の疲労
ストレスによってコルチゾールの合成と分泌が促進されるのは一時的なものでなくてはなりません。
正常であれば適量のコルチゾールが分泌されたあと、負のフィードバック機構が働いて、日内変動(元の状態)に近づくようになっています。
「負のフィードバック機構」とは役割が済んだら分泌を止めるシステムのことです。
しかし慢性的なストレスがあると、このシステムが破綻して、HPA軸は過剰に働き過ぎたり、逆に機能が低下してしまうのです。
そして副腎が適切に機能しなくなると、疲れやすさや脱力感、めまい、吐き気、消化器の不調、発熱、筋肉痛など非常に多岐な症状が現れやすくなります。
またコルチゾールの慢性的な分泌はうつ病のリスクを高めたり、免疫機能の異常(膠原病など)を引き起こしたりする可能性もあります。
体に異常が出やすい方は以下のことに身に覚えはありませんか?
ちなみにこのコルチゾールはステロイドホルモンの一つでもありますが、ステロイドと聞けば耳にされた方も多いのではないでしょうか。
人体に対してなんとなく悪いイメージを持たれるステロイドですが、そもそも生体内でも生産・分泌されている物質なのですね。
市販の塗り薬にもありますし、病院でも炎症を鎮めるために処方された経験がある方もいるかと思います。
その際に医師からステロイドを使用する際の注意点として「長期間使用したり、急に使用を中止することはNG」と説明を受けたことがあるかと思います。
そのようなことからも、長期間ステロイドホルモンが分泌することは人体にとって良くないことが想像がつきますね。
(決して治療にステロイドが悪いと言っていません。)
では過剰分泌を引き起こす原因を除去できることに越したことはないですが、そうも簡単にはいかないと思います。
むかつく上司が急に消えてはくれませんし、慢性的な肩こり腰痛も消えないし、自分の性格も簡単には変えれません。
そんな時に注目されている医療が鍼灸なのです!
鍼治療によるストレスホルモンの調整
ここからがようやく本題です。
なんと鍼治療には、このHPA軸が過剰に活動した状態を和らげる働きがあることが、数多くの動物実験で確認され始めているのです。
例えばアメリカで行われた研究では、寒冷ストレス状態のラットを用いた実験があります。
両足の足三里というツボに鍼刺激を加えると、脳の視床下部でCRH(副腎皮質ホルモン放出ホルモン)を分泌する神経の活動を抑制してHPA軸の活動を低下させ、ストレスホルモンの分泌を抑えるというメカニズムが実際に確認されています。
他にも米国国立医学図書館(NLM)が作成している医学分野の文献情報データベースであるPubMed(パブメド)には2024年7月に掲載されたホヤホヤの論文がありました。
こちらに書かれている研究結果にも、細かなメカニズムまでは解明されてないものの、動物モデルにおけるHPA軸調節不全の治療における鍼治療の有効性を支持している論文があります。
特に注目されているのはHPA軸の活動亢進であり、最も広範に研究されている病態は、HPA軸調節不全と精神疾患です。
つまり今もなお、効果があることは分かっているが、更にその機序を解明すべく世界で沢山の研究が行われているのです。
以下に英語ではありますが引用論文を掲載しておきます。
「Journal of Integrative Medicine」
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2095496424003406?via%3Dihub
Effects of acupuncture on hypothalamic–pituitary–adrenal axis: Current status and future perspectives
「American Journal of Translational Research」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8991130/
Understandings of acupuncture application and mechanisms
まとめ
繰り返しになりますが、少し前まで鍼灸というものは「よく効くけど、その理由が分からない」という不思議な医学だったわけですが、近年では科学的な検証や解明のための研究は右肩上がりに増加してる現状です。
特に「針を刺したら何で痛みが消えるの??」という鍼灸の得意分野である鎮痛作用の機序はかなり解明されています。
当院では不良姿勢を改善すること、つまり体の外側のアンバラスを整えることを得意としておりますが、それと同時に体の内側も調整可能なことが強みでもあります。
疲れが取れないという方は副腎の不調のサインかもしれません。
放置して病気に発展してしまう前に、定期的なケアで副腎の働き過ぎを予防していきましょう。
また皆様が受けられている当院の「幸せな気持ちになるマッサージ」にも同じような作用があります。
体に良い刺激をいれることは古くから揺るぎない養生の一つでもあります。
是非、定期的に良い刺激を体に入れて健康維持にお役立てくださいませ。
・慢性的な炎症(炎症性の病気、皮膚炎、糖尿病、喘息など)
・血糖値の急激な変動(ドカ食い、早食い、空腹に糖分など)
・肥満(とくに内臓脂肪過多)
・慢性的なストレス
・夜更かしやリズムの乱れた睡眠
・神経性摂食障害(無理なダイエットなど)