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風邪の漢方 ー 強い悪寒と高熱に「麻黄湯」ー

前回は「桂枝湯」について書きました。今回は、より寒気が強く、ガチガチに体が固まるタイプの風邪に使われる麻黄湯(まおうとう)です。インフルエンザの初期症状とも重なるため、知っておくと非常に理解が深まる処方です。

👉この記事でわかること!
  • 麻黄湯が適応する風邪のタイプ
  • 東洋医学で考えるインフルエンザ初期の状態
  • 麻黄湯とタミフルを比較した研究の内容
  • 麻黄に含まれるエフェドリンの作用
  • 小児インフルエンザで注意すべき解熱薬

東洋医学では、風邪は単なる「ウイルス感染」ではなく、外から入ってきた邪気(風寒)との攻防と考えます。特に麻黄湯が関わるのは、

  • 強い悪寒
  • ガタガタ震える
  • 汗が出ない
  • 体がこわばる
  • 高熱

という状態です。これは、体の内側では熱を上げて戦っているのに、体表が閉じているため熱が外へ発散できない状態です。いわば、中は熱いのに、外は寒いという矛盾が起きています。

麻黄湯は、麻黄、杏仁、桂枝、甘草の4つの生薬から成ります。桂枝湯と少し似ていますが、芍薬や生姜・大棗が入らず、より「発散」に特化した処方です。目的は、体表を開き、閉塞を解除すること。そのため発汗は結果であって、目的ではありません。

麻黄はEphedra sinicaなどの地上茎を乾燥させた生薬です。主成分は「エフェドリン類」。この成分は「交感神経刺激」「気管支拡張」「血管収縮」などの作用を持ちます。実はこのエフェドリン、World Anti-Doping Agency(WADA*)の規定では、一定濃度以上でドーピング違反となる成分です。つまり「パフォーマンスを上げ得る成分」でもあります。ただし、医療用量の麻黄湯で問題になることは通常ありません。漢方では単味ではなく処方として組み合わせることで、作用が調整されています。
※WADA=スポーツでのドーピングを取り締まる国際機関

近年、麻黄湯(Maoto)と抗インフルエンザ薬を比較した臨床研究が報告されています。発症48時間以内の成人を対象とした研究では、

  • 解熱までの時間
  • 全身症状の改善

において、タミフル(オセルタミビル)と大きな差がみられなかったという報告があります。また、小規模研究をまとめたレビューでは、発熱期間の短縮が示唆されています。ただし、大規模試験はまだ十分ではなく、すべてのケースに万能ではないという点は重要です。

麻黄湯はウイルスを直接攻撃する薬ではありません。体の防御反応を適切に動かす薬という位置づけです。特に強い悪寒汗が出ていない体力があるという条件が合ったときに力を発揮します。

登録販売者の勉強でも強調されるのが、小児インフルエンザではNSAIDsは原則避けるという点です。

ロキソプロフェンやイブプロフェンなどのNSAIDsは、インフルエンザ脳症との関連が指摘されています。小児ではアセトアミノフェンが推奨されています。発熱は体の防御反応でもあります。むやみに熱を下げるのではなく、年齢や状態を踏まえ、必ず医師の診断を受けることが大切です。

向く状態

・強い悪寒
・汗が出ていない
・高熱
・体力がある

向かない状態

・すでに汗が出ている
・著しく体力が低下している
・動悸が出やすい

インフルエンザ初期にみられる、強い悪寒と発熱。東洋医学ではこれを、風寒の邪が体表に侵入し、腠理が閉じた「風寒束表」の状態と捉えます。

腠理とは、皮膚や毛穴を通して汗の出入りを調整し、外邪から身体を守る防御の門のような存在です。本来は開いたり閉じたり(開闔)しながら体温を調整しています。しかし風寒の邪が侵入すると、その開闔がうまく働かず、腠理が閉じたままになります。その結果、汗が出ず、強い悪寒が起こります。一方で体内では正気が邪と戦うために熱を生み出すため、「外は寒いのに中は熱い」という矛盾した状態が生まれます。

麻黄湯は、この閉じた腠理を開き、肺の宣発作用を助け、営衛の巡りを整えることで、開闔を回復させる処方です。汗を無理に出すのではなく、正気が本来の働きを取り戻せる環境を整える。その結果として、邪が外へと解かれていきます。

西洋薬がウイルスの増殖や拡散を抑えるという「病原体」へのアプローチだとすれば、漢方は「正気と邪気の関係」という身体の反応に目を向けています。どちらが正しいという話ではなく、視点が違うだけです。風邪を単なるウイルスの問題として見るのではなく、身体がどう反応しているのかを見る。その視点を持つだけで、選択肢は少し変わってくるのかもしれません。

ABOUT US
koji(トレ​イン治療院 院長)はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師|国際中医専門員
大阪で治療院を開業して11年。 体は、その人の生き方や時間の積み重ねが静かに現れる場所だと感じています。 中医学を土台に、身体だけでなく心や生活の流れまで含めて整えていく。 そんな治療を大切にしています。 このブログでは、臨床の中での気づきや、体と向き合うための小さなヒントを、自分なりの言葉で書き残しています。 読んだ方の毎日が、少しでも軽くなれば嬉しい。
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