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風邪の漢方 ー 「葛根湯」それ本当に初期?ー

風邪といえば、「葛根湯」ですよね。ドラッグストアには、さまざまな会社の葛根湯がずらりと並び、どれを選べばいいのか迷った経験があるのではないでしょうか。迷っていると、声をかけてくれる店員さん。「どうされましたか?風邪ですか。じゃあ葛根湯ですね。」そう言って、自社で開発された葛根湯を勧めてくれます。でも――その症状に、本当に葛根湯は合っているのでしょうか。もし、症状もほとんど聞かれずにそう言われたとしたら、少しだけ立ち止まって考えてみてください。それは“体”を見ていますか。それとも“ラベル”を見ていますか。漢方は本来、病名で選ぶ医学ではありません。「風邪=葛根湯」その発想は、実は西洋医学的な思考と大きくは変わりません。今日は、葛根湯の名誉回復をします。

👉この記事でわかること!
  • 「風邪=葛根湯」という考え方の落とし穴
  • 日本漢方と中医学の違い
  • 「証」とは何か
  • 葛根湯の構造と生薬の役割
  • 現代人の首こりと葛根湯の関係

「葛根湯医者」という落語があります。どんな患者が来ても、とにかく葛根湯を出すヤブ医者の話です。頭が痛い?では葛根湯を。腹が痛い?では葛根湯を。怪我をした?では葛根湯を。

最後には、自分が具合が悪くなっても葛根湯。そんな笑い話です。でもこれは、“を見ない医療”への風刺でもあります。そして現代にも、ときどきドラッグストアで「葛根湯登録販売者」に遭遇することはあります。風邪っぽいなら、とりあえず葛根湯を。でも、葛根湯はそんなに雑に使われるための薬ではありません。

葛根湯は、後漢時代の医師・張仲景がまとめた古典「傷寒論」に登場する処方です。桂枝湯や麻黄湯と並ぶ、太陽病の代表処方。つまり、“商品名の風邪薬”ではありません。ではなぜ日本ではここまで万能薬のように扱われるのか。そこに、日本漢方と中医学の違いがあります。

太陽病とは・・
漢方では、風邪の進行をいくつかの段階に分けて考えます。そのいちばん最初の段階が「太陽病」。体の“表面”で、外から入ってきた邪気と体が戦っている状態です。
特徴は、
・悪寒(寒気)
・発熱
・脈が緊張している
いわゆる「ひき始め」の状態を指します。
桂枝湯・麻黄湯・葛根湯は、この段階で使われる代表的な処方です。

日本漢方では、『傷寒論』を基本とした「方証相対」という方法を用います。寒気。首すじや肩こり。頭痛。汗が出ない。――これがそろえば葛根湯証。まるでカルタのように、証と方剤を対応させます。理論を深追いするよりも、経験と実践を重視する。熟達すれば非常によく効きますが、診る人によって処方が変わることもあります。日本の保険医療では、診察時間の制約もあり、症状のパターンと方剤を対応させる「方証相対」に近い形で処方されることが多いのが現実です。しかし、方証相対が劣っているわけではありません。豊富な経験を積んだ医師であれば、短時間でも的確に証を捉え、適切な処方を選ぶことができます。

一方、中医学では「弁証論治」四診を用いて体質や病の本質を見極め、理論的に治療方針を決めます。体系立った理論があるため、治療の方向性は大きくぶれません。同じ『傷寒論』から生まれた葛根湯でも、文化によって見え方が変わるのです。

どちらが正しいというよりも、医学の文化と発展の違いと言えるでしょう。

漢方は、病名で選びません。風邪だから葛根湯。ではなく、いま、この体がどう反応しているか。その反応パターンを「証」といいます。同じ風邪でも、「汗が出ている人、出ていない人」、「寒気が強い人、弱い人」、「首がこる人、体中が痛い人」すべて違う。だから処方も変わります。

葛根湯、桂枝湯、麻黄湯。この三つはすべて太陽病の処方。体表で外邪と戦っている状態です。

桂枝湯

汗が出ている。守りが弱い。

麻黄湯

汗が出ない。悪寒が強い。完全に閉じている。

葛根湯

汗が出ない。首・肩がガチガチ。

臨床ではこれだけでかなり分かれます。汗出てますか?首こり強いですか?これが分かれ目。

葛根湯は、「葛根、麻黄、桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草」から構成されます。葛根と芍薬が筋肉をゆるめ、麻黄と桂皮が体表を開き、生姜・大棗・甘草が全体を調和する。つまり葛根湯は、「閉じて固まった体表と筋肉を、温めて開き、ゆるめる処方」なのです。

実は、葛根湯タイプは現代人にとても多い。長時間のパソコン作業。スマホ。猫背。慢性的な首こり。これ、中医学的には「項背強」。風邪でなくても、閉じて固まり巡りが悪いそんな状態なら、葛根湯の構造は理にかないます。だから日本では、肩こり薬としても使われるのです。

葛根湯は、「初期の風邪薬」ではありません。汗が出ていない。悪寒がある。首から背中が強くこわばっている。この状態がそろったときに、はじめて意味を持つ処方です。どれだけ有名でも、証が違えば合わない。漢方は、名前ではなく“状態”で選ぶ医学です。葛根湯は名方ですが、万能ではありません。首が固まり、体が閉じ、寒気があるとき。そのときにこそ静かに力を発揮します。葛根湯は、風邪の初期薬ではなく、“筋肉にきている風寒を開く薬”。そう覚えておいてください。

今回お話ししたのは、「表証」の段階です。表証とは、悪寒がある。発熱がある。脈が緊張している。つまり、体の“表面”で外からの邪気と戦っている状態。いわゆる一般的な「風邪のひき始め」です。桂枝湯も、麻黄湯も、葛根湯も、この“表”での攻防に使う処方でした。汗が出ているのか。出ていないのか。首や背中が固まっているのか。そこを見て選ぶ。それが漢方です。

しかし――

患者さんからよく聞く言葉があります。「風邪は治ったんですけど、咳だけ止まらないんです。」コレ、本当に、風邪は治ったのでしょうか。漢方的に見ると、それは“治った”のではなく、邪気が表から一段奥に入っただけ、という場合があります。戦いの場所が、体表から、もう少し深いところへ移った。これが、いわゆる「こじらせた風邪」。

次回からは、この“表の先”の話をしていきます。咳が残る。痰が絡む。だるさが抜けない。こういったケースでの漢方の考え方と、処方の選び方。風邪は、ひき始めだけが勝負ではありません。その先の見極めこそが、大事です。次回は、「風邪が治らない」の正体を解説します。

【風邪の漢方シリーズ】


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koji(トレ​イン治療院 院長)はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師|国際中医専門員
大阪で治療院を開業して11年。 体は、その人の生き方や時間の積み重ねが静かに現れる場所だと感じています。 中医学を土台に、身体だけでなく心や生活の流れまで含めて整えていく。 そんな治療を大切にしています。 このブログでは、臨床の中での気づきや、体と向き合うための小さなヒントを、自分なりの言葉で書き残しています。 読んだ方の毎日が、少しでも軽くなれば嬉しい。
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