今年の2月は、なぜか不正出血のご相談が重なりました。もちろん、同じ症状でも体の状態や背景は人それぞれですし、特定のどなたかのお話ではありません。ただ、偶然とは思えないほど似たタイミングで続いたので、「これは少し書いてみてもいいのかもしれない」と思いました。
東洋医学では、季節の変わり目は体が揺らぎやすい時期と考えます。
冬から春へ向かうこの時期は、寒さが残りながらも日差しは少しずつ強くなり、気温も上がったり下がったりを繰り返します。気候が安定しない時期は、自律神経も揺らぎやすく、睡眠や食欲、気分の変化として現れることも少なくありません。
特に女性の体は、こうした外の変化にとても敏感です。
「最近なんだか疲れやすい」
「眠りが浅い気がする」
「気持ちが落ち着かない」
そんな小さな変化の延長線上に、不正出血という形で体がサインを出すこともあります。
実際に来院された方の中には、婦人科で検査を受け、血液検査ではホルモン値は正常と言われている方もいました。異常はないと言われたけれど、出血は続いている。
では、なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
更年期やプレ更年期と聞くと、多くの方は「女性ホルモンが減るから起こる」と考えるかもしれません。もちろんそれも間違いではありません。ただ、臨床で体を診ていると、どうもそれだけでは説明がつかない場面に出会うことがあります。
ホルモンという“指令”は正常に出ている。
それでも、体はうまく応えられていない。
そんな印象を受けることがあるのです。
更年期=ホルモン不足という誤解
更年期の不調は、一般的に「女性ホルモンが減るから起こる」と説明されます。
医学的には、閉経に向かう過程で卵巣機能が低下し、エストロゲン(主にエストラジオール)の分泌が減少していきます。その結果、ほてり、発汗、気分の変動、睡眠障害などが起こりやすくなります。
これは事実です。
しかし、更年期前後の体で実際に起きていることは、単純な「不足」だけではありません。
特にプレ更年期(閉経前の数年間)では、ホルモンは徐々に減るというよりも、「大きく揺らぐ」時期です。
排卵が不安定になる
40代に入ると、排卵が毎周期きれいに起こらないことが増えてきます。
こうしたばらつきが出てきます。
排卵が起こらない周期では、プロゲステロン(黄体ホルモン)が十分に分泌されません。
エストロゲンは「ゼロ」になるわけではない
無排卵周期では、プロゲステロンが不足する一方で、エストロゲンはある程度分泌され続けます。
エストロゲンは子宮内膜を増殖させるホルモンです。
プロゲステロンは、その内膜を成熟させ、月経に向けて整えるホルモンです。

排卵が起こらずプロゲステロンが十分に働かないと、
という状態になります。
この結果、内膜が不安定になり、不正出血が起こりやすくなります。
これを医学的には「機能性子宮出血」や「無排卵性出血」と呼びます。
ここで大事なのは、血液検査でホルモン値が「正常範囲」でも、その周期全体のホルモンの推移が正常とは限らないということです。
ホルモンは日によって大きく変動します。採血したその時点の値が基準範囲内でも、
といったことは十分にあり得ます。
つまり、「ホルモン値が正常=ホルモンの働きが問題ない」とは必ずしも言えないのです。
命令は正常でも、現場が応えられないことがある
ここまで、ホルモンの揺らぎについて医学的に整理してきました。
確かに更年期前後では、
ということが起こります。
これは医学的にも説明がつきます。ただ、臨床で体を診ていると、もう一つの視点が必要だと感じることがあります。
それは、「ホルモンという指令は出ているのに、子宮がうまく応えられていないのではないか」という視点です。
ホルモンは「量」だけでなく「反応性」が重要
ホルモンは血液に乗って全身を巡りますが、実際に働くためには、標的となる組織にある「受容体」と結びつく必要があります。
ホルモンが分泌される
血流に乗って届く
組織の受容体がそれを受け取る
細胞が反応する
この一連の流れがあって初めて「作用」が起こります。
更年期前後では、
といった要因が重なりやすくなります。
その結果、ホルモンの値が基準範囲内であっても、組織側の反応性が低下している可能性があります。
これは医学的にも、「ホルモン感受性の低下」や「組織反応性の変化」として知られている概念です。
子宮内膜はとても繊細な組織
子宮内膜は、
- エストロゲンで増殖し
- プロゲステロンで分化・成熟し
- 最終的に月経として剥がれる
という精密なプロセスを毎月繰り返しています。
この過程には、ホルモンだけでなく、
- 局所の血流
- 免疫細胞
- 炎症性サイトカイン
- 細胞のアポトーシス(計画的細胞死)
などが関与しています。
つまり、ホルモンの「命令」だけで動いているわけではありません。
もし、
- 血流が不十分
- 自律神経が不安定
- 睡眠が浅い
- 慢性的な疲労がある
といった状態が続いていれば、内膜は均一に成熟しにくくなります。
その結果、
- 一部だけ先に崩れる
- 剥がれきらない部分が残る
- 不安定な出血が起こる
ということが起こり得ます。
人のアドバイスと同じかもしれません
少し例え話になりますが。どれだけ正しいアドバイスでも、受け取る側に余裕がなければ、うまく受け入れることはできません。
体も似ています。
ホルモンという「指令」が正常に出ていても、子宮という「現場」が疲れていれば、うまく応えられない。
不正出血は、ホルモンの異常というよりも、体が揺らぎに耐えきれなくなっているサインなのかもしれません。
東洋医学から見た「流れ」の問題 ― 瘀血という視点
ここまでお話ししてきたように、ホルモン値が正常でも、内膜が不安定になり、不正出血が起こる。ということは医学的に説明がつきます。
では、これを東洋医学ではどのように捉えるのでしょうか。
そこで出てくるのが「瘀血(おけつ)」という考え方です。
瘀血とは何か
瘀血とは、単純に「血が多い」という意味ではありません。
東洋医学でいう瘀血は、血の巡りが悪くなり、滞りが生じた状態を指します。
現代医学的に対応する概念としては、
などが近いと考えられます。完全に同じ概念ではありませんが、方向性としては重なる部分があります。
出血しているのに瘀血?
ここが少しややこしいところです。
「出血しているのに、なぜ滞りなのか?」
一見、矛盾しているように思えます。
しかし臨床では、
といったケースが見られます。
これは、
という状態と重なります。
西洋医学でも、子宮内膜の異常出血の背景には、
が関与するとされています。
つまり、流れの質が変わっているということです。
これを東洋医学では「瘀血」と表現します。
なぜ更年期に起こりやすいのか
更年期前後では、
- 卵巣機能の低下
- 血管の弾力性低下
- 自律神経の乱れ
- ストレス増加
が重なります。
骨盤内の血流は自律神経や血管の反応性に強く影響されます。
そのため、ホルモンが正常範囲内でも、
- 内膜への血流が不安定
- 剥離のタイミングが乱れる
ということが起こりやすくなります。
東洋医学では、腎の衰え、肝の疏泄失調、そして血の滞りとして説明されます。
表現は違いますが、「調整機構の揺らぎ」と捉える点では、現代医学と大きくは離れていません。
ただし、ここはとても大切なこと⚠️
40代以降の不正出血では、
- 子宮体がん
- 子宮内膜増殖症
- ポリープ
などの器質的疾患を必ず除外する必要があります。
これは東洋医学・西洋医学に関係なく、最優先事項です。
検査で重大な疾患が否定された上で、「機能的な揺らぎ」として考えることが大切です。
出血しているのに“足りていない”という視点 ― 気虚
気には「血を巡らせる」と「血を留める」働きがある
東洋医学では、気にはいくつかの役割があります。
その中でも重要なのが、
です。
もしこの働きが弱くなるとどうなるでしょう。血を動かす力が弱くなれば、巡りは滞りやすくなります。
そして血を留める力が弱くなれば、本来止まるはずの出血が止まりにくくなります。
つまり、出血しているのに、体の力としては不足している。という状態が生まれます。
気虚と不正出血の関係
更年期前後の不正出血では、
- 出血が長く続く
- 少量がダラダラ続く
- 動くと増える気がする
- 疲れると悪化する
という特徴を持つ方が少なくありません。
東洋医学では、こうした状態を「気虚によって血を固摂できない」と考えます。
これは単なる理論ではなく、現代医学的に見ても、
- 慢性的な疲労
- 睡眠不足
- 自律神経の乱れ
- 栄養状態の低下
といった状態では、血管の収縮調整や止血機能が不安定になることが知られています。
表現は違いますが、「体の回復力や調整力が低下している」という点では共通しています。
瘀血よりも先にあるもの
実際の臨床では、瘀血が目立っていても、その奥に気虚があることが少なくありません。
巡らせる力が弱くなる→ 血が滞る→ 瘀血が生まれる
つまり、瘀血は「結果」であり、気虚は「土台」であることが多い。
出血しているのに足りていない。この一見矛盾する状態こそが、更年期前後の不正出血の難しさかもしれません。

実際の臨床でよく出会う方
これはあくまで傾向ですが、
- 真面目で責任感が強い
- 家族や仕事を優先してきた
- 休むのが苦手
- 疲れていても動けてしまう
そういう方ほど、「検査では問題ありません」と言われながら不調が続くことがあります。
体は限界まで働こうとします。でも、限界を超えると、出血や不眠、動悸、めまいなどの形でサインを出します。
東洋医学では、それを「気の不足」と表現します。
体は消耗しながら生きている ― だからこそ整えるという選択

ここまで、不正出血についていくつかの視点からお話ししてきました。
どれか一つだけが原因というよりも、それぞれが重なり合いながら体に影響していることが多いように感じます。
臨床で体を診ていると、時々こう考えることがあります。
ホルモンは、体に届く「命令」のようなものなのではないか、と。
脳や卵巣からの指令はきちんと出ている。血液検査でも異常はない。
それでも体がうまく応えられないことがあります。
それは、現場が疲れているからかもしれません。
子宮という現場が、睡眠不足やストレスを抱え、血流が落ち、回復する余裕を失っている。
そんな状態で「これまで通り働いてください」という命令が届けば、どこかで無理が生じます。
内膜は増えるけれど成熟しきれない。剥がれるべきものが剥がれきらない。
その結果として、不正出血という形で体がサインを出しているのかもしれません。
そしてもう一つ、大切な視点があります。
人間は誰しも、少しずつ老いていきます。
体は決して永久に同じ状態を保てるものではありません。
何十年もの間、一つの臓器が壊れることなく働き続けていること自体、本当はとても不思議なことです。
電池も交換せず、外からエネルギーを供給されるわけでもなく、自分自身でエネルギーを生み出しながら動き続ける機械を、人間はいまだに発明できていません。
それを私たちの体は、生まれてからずっと続けています。
だからこそ、更年期は「壊れた」のではなく、これまで頑張ってきた体が、働き方を変えようとしている時期なのかもしれません。
以前と同じようには動けない。疲れが残りやすい。回復に時間がかかる。
それは衰えというよりも、自然な変化です。
変わらないことを目指すのではなく、変化を受け入れること。
そして、少し休むこと。
呼吸を深くすること。
体を温めること。
自分の体をいたわること。
それが結果として、長く体を使い続けることにつながります。
どんな道具も、大切に扱えば長く使えます。
体も同じだと思います。
減っていくものはあるかもしれません。
けれど、整えながら使っていくことで、思っている以上に長く、そして心地よく働いてくれます。
もし不正出血が続く場合は、まず婦人科での検査を受けてください。
そのうえで異常が見つからなかったとき。
体はもしかすると、「これからの使い方を少し変えてみませんか」と静かに伝えているのかもしれません。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。少し専門的なお話もありましたが、ご自身の体を見つめ直すきっかけになれば嬉しく思います。日々の体調の変化は、決して「異常」だけではなく、体からの大切なメッセージであることも少なくありません。
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