逆子に鍼灸は本当に効く?鍼灸師の私が「逆子治療のために通う必要はない」と考える理由

今回は、鍼灸師である私にとっては少し書きにくいテーマを取り上げます。

「逆子にはお灸が効く」

という話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。実はこれは鍼灸の世界では非常に有名な話です。

足の小指の外側にある「至陰(しいん)」というツボにお灸をすると、胎児が動きやすくなり、骨盤位、いわゆる逆子が頭位に戻るとされています。実際に「逆子 鍼灸」「逆子 お灸」などと検索すると、多くの鍼灸院が見つかります。中には、

  • 「逆子改善率90%」
  • 「早く治療を始めるほど改善率が高い」
  • 「週に2〜3回通ってください」

と案内している治療院もあります。

もちろん、本当に患者さんのためを思って行っている先生もたくさんいると思います。ただ私は、逆子を治すことだけを目的として、鍼灸院へ何度も通う必要性は高くないと考えています。その理由を、研究データを交えて説明してみたいと思います。

まず知ってほしいこと 胎児はもともとかなり動いている

逆子について考える前に、とても大切なことがあります。それは、妊娠中の胎児の向きはかなり変わるということです。

妊娠中期には骨盤位は珍しいものではありません。しかし妊娠週数が進むにつれて自然に頭位になる胎児が増えていき、正期産まで骨盤位のまま残るのは、およそ3〜5%程度です。

近年の報告でも、妊娠32〜36週では骨盤位は約7〜10%程度ですが、その後さらに減少し、分娩時には3〜5%程度になります。

つまり逆に言えば、最終的には95%前後の胎児は骨盤位ではなくなります。ここが非常に重要です。

32週で逆子でも、半分以上は自然に頭位になった研究がある

さらに興味深い研究があります。妊娠32週で骨盤位だった単胎妊娠310例を、その後毎週超音波検査で追跡した研究では、177例、57%が自然に頭位へ回転しました。もちろん、お灸も鍼も行った結果ではありません。自然経過です。

つまり、「32週で逆子だったので、お灸をしました。その後、頭が下になりました」という経験だけでは、お灸で治ったのか、何もしなくても自然に回ったのかは分からない ということになります。

「当院では逆子の改善率80%!!」だけでは治療効果は分からない

例えば妊娠32週の逆子の妊婦さん100人にお灸をして、80人が頭位になったとします。

すると、「逆子改善率80%」と宣伝したくなるかもしれません。

でも、この数字だけでは治療効果を判断できません。仮に何もしなかった人でも70人が自然に頭位になる時期だったとすれば、本当に知りたいのは80%という数字ではなく、自然回転70%に対して、お灸によってどれくらい上乗せされたのか だからです。

医学研究で治療効果を調べるために比較対象となる「対照群」が必要なのは、このためです。

日本にも「鍼灸で逆子が治った」という有名な研究がある

日本では1988年に、産婦人科医の林田和郎氏が「鍼灸による胎位矯正法」という論文を発表しています。現在でも逆子に対する鍼灸治療を紹介するときに引用されることのある研究です。

ただし、この研究は現在の臨床研究の基準から見ると、治療を受けない群や偽治療群と厳密に比較したランダム化比較試験ではありません。

先ほど説明したように、妊娠後期の骨盤位は自然に頭位になることがあります。そのため、「鍼灸を受けた人の何%が頭位になったか」だけを調べても、その何%がお灸による効果なのかを判定することは難しいのです。このタイプの研究から「鍼灸には○%の効果がある」と断定することには慎重であるべきだと思います。

では、もっと厳密に調べた研究ではどうだったのか

2014年、フランスの研究グループが328人の妊婦を対象として、比較的しっかりしたランダム化比較試験を行いました。

研究は、鍼と灸を行う群164人、プラセボ治療を行う群164人、に分けて比較しています。

いわゆる「治療をした人を観察しただけ」の研究とは違い、治療を受けた群と偽治療群を比較する方法です。

結果として、鍼灸治療によって妊娠後期の骨盤位が有意に頭位へ変わる効果は確認されませんでした。この研究は、

Coulon C, et al.
Version of breech fetuses by moxibustion with acupuncture: a randomized controlled trial.
Obstetrics & Gynecology. 2014.

として報告されています。

では、やっぱり逆子のお灸は効かないのか?

ここで話を終わらせるとフェアではありません。実は2023年に、Cochraneという非常に信頼性の高い医学レビューが更新されています。

Cochraneレビューは、一つの研究だけを見るのではなく、複数の臨床試験を集めて全体として効果があるのかを評価します。

13試験、合計2181人を検討した結果、灸を通常の管理に加えることで、出生時に頭位ではない確率を多少下げる可能性がある という結果になりました。エビデンスの確実性は「中等度」と評価されています。

つまり、「逆子に対するお灸には科学的根拠が一切ない」とまで言ってしまうのも正確ではありません。

ただし、帝王切開が減ったわけではない

ここは非常に大切だと思います。2023年のCochraneレビューでは、出生時の胎位について多少の改善が示唆された一方、帝王切開率については明確な差が認められていません。

つまり、

お灸をする

頭位になる胎児が少し増えるかもしれない

だから帝王切開も大幅に減る

というところまでは確認されていません。

36週を過ぎても自然に回る胎児はいる

自然回転についてもう一つ興味深いデータがあります。36週で骨盤位だった胎児でも、その後出生までに自然に頭位になるケースがあります。2024年の骨盤位管理に関するレビューでは、36週時点で骨盤位だった胎児の約25%が、その後自然に頭位になる という報告が紹介されています。

一方で、妊娠週数が進むほど自然に回転する可能性は低下していきます。ですから、「お灸を始めるなら早ければ早いほどよい」という表現にも注意が必要です。なぜなら早い週数ほど、そもそも何もしなくても自然に回る可能性が高いからです。

妊娠週数と骨盤位のイメージ

おおよそのイメージを整理すると次のようになります。

32週で骨盤位だった胎児を追跡した研究では57%が自然に頭位へ回転しています。そのため、特に30〜34週頃に「当院の逆子改善率は高い」と示されても、それだけでは鍼灸の治療効果とは判断できません。

私が「逆子治療のためだけに通う必要はない」と考える理由

私は鍼灸師です。そして鍼灸という治療法には、痛みやその他の症状について一定の医学的エビデンスが存在します。私は普段の臨床でも鍼灸を使っています。

だからこそ、何にでも鍼灸が効くことにしてしまうのは違うと思っています。

逆子について現在分かっていることを整理すると、

  • 自然に頭位になる胎児が非常に多い
  • 鍼灸によって改善したように見えても自然回転との区別が難しい
  • 質の高いランダム化比較試験では効果が認められなかった研究もある
  • 一方で複数研究をまとめた最新のCochraneレビューでは、灸によって頭位になる確率を多少高める可能性は示されている
  • ただし帝王切開率を減らすほどの明確な効果は確認されていない

という状態です。

これを踏まえると私は、「逆子を何とか治したい」という不安につけ込むような形で、高額な施術を何度も受けてもらうほど強い医学的根拠はないと考えています。

「早く来ないと治らなくなる」と言われても焦らなくていい

逆子と診断されると、「帝王切開になったらどうしよう」「早く何とかしないと」と不安になる方もいると思います。

そんなときに、「今すぐお灸を始めないと治りにくくなります」と言われれば、通いたくなるのも当然です。

でも妊娠30週前後であれば、多くの胎児はまだ自然に向きを変える時期です。逆子と言われたからといって、「今すぐ何か治療をしなければならない」と焦る必要はありません。

まず大切なのは、妊婦健診を受けながら産婦人科医と経過を確認していくことだと思います。

では、逆子の妊婦さんに鍼灸はまったく意味がないのか

私はそこまで極端には考えていません。妊娠後期には、腰痛、肩こり、足のむくみ、睡眠の問題、身体的な緊張など、さまざまな不調が出ることがあります。そうした症状を楽にしたり、リラックスする目的で鍼灸やマッサージを利用することには別の意味があります。その結果として胎児が自然に頭位になったのであれば、それはとても嬉しいことです。

ただ私は、「このツボにお灸をすれば逆子が治ります」という形で治療を売ることと、妊娠中の身体全体をケアするということは分けて考えるべきだと思っています。

最後に

今回の記事は、鍼灸を否定するために書いたものではありません。むしろ私は鍼灸師だからこそ、効果が分かっていること、可能性はあるがまだ分からないこと、現在の研究では否定的なことをできるだけ区別して伝えたいと思っています。

逆子に対する灸については、研究上まったく可能性がないわけではありません。しかし同時に、妊娠後期には自然に頭位へ回転する胎児が非常に多いことも忘れてはいけません。

そのため私は現時点では、逆子を治すことだけを目的として、焦って鍼灸院へ何度も通う必要はないと考えています。

逆子と言われた方は、まず妊婦健診で赤ちゃんの状態を確認しながら、担当の産婦人科医と今後について相談してください。鍼灸を利用するとしても、「絶対に逆子を治す治療」ではなく、妊娠中の身体を少し楽にするための選択肢の一つくらいに考えてもらうのが、私は一番誠実なのではないかと思っています。

参考文献

林田和郎. 鍼灸による胎位矯正法. 全日本鍼灸学会雑誌. 1988;38(4):335-339.

Coulon C, Poleszczuk M, Paty-Montaigne MH, et al. Version of breech fetuses by moxibustion with acupuncture: a randomized controlled trial. Obstet Gynecol. 2014;124(1):32-39.

Coyle ME, Smith CA, Peat B. Cephalic version by moxibustion for breech presentation. Cochrane Database Syst Rev. 2023.

Westgren M, et al. Spontaneous cephalic version of breech presentation in the last trimester. Br J Obstet Gynaecol. 1985.

Zhou Z, et al. Spontaneous cephalic version and risk factors for persistent breech presentation. 2022.

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koji(トレ​イン治療院 院長)はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師|国際中医専門員
大阪で治療院を開業して12年。 体は、その人の生き方や時間の積み重ねが静かに現れる場所だと感じています。 中医学を土台に、身体だけでなく心や生活の流れまで含めて整えていく。 そんな治療を大切にしています。 ブログでは、臨床の中での気づきや、体と向き合うための小さなヒントを、自分なりの言葉で書き残しています。 読んだ方の毎日が、少しでも軽くなれば嬉しい。
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