患者様(初診)
26歳の女性。芸能関係の仕事で、日々多忙な生活を送られている。日頃から睡眠の質は低く感じており、ある日突然、側頭部に500円玉ほどの脱毛を発見して驚かれる。症状が増悪することは無いが、かといって寛解する事もなく今に至る。病院の受診はしていない。患者は整体の目的で当院を利用されていたが、円形脱毛症がある旨を相談してくれたので、鍼灸治療も試してみる事にした。過去に関節リウマチの既往歴はあるが治療は終了している。その他、PMSがあるため超低容量ピルを服薬している。
その他の症状
弁証(診立て)
血熱生風による脱毛。紅舌、弦脈があり、不眠は心火の高ぶりによるもの、口腔乾燥は邪熱によって津液が灼傷されたものによると考える。
治療期間
2022年7月から2022年11月の期間で治療回数は全5回。
治療内容
鍼灸、マッサージ、整体
【使用経穴】
内関、太衝、風池、合谷、百会、廉泉、脱毛局所への散針、また頭皮循環の改善を目的に翳明を使用。
患者には症状のある間、アルコール、刺激物は控える、睡眠をしっかりとるように心がけてもらう。
まとめ
患者は自己免疫疾患の既往歴はあるが、今回は症状が軽症だったこと、また他に強い症状が無かったことから、鍼灸治療を開始した。患者には月1回程度、疲労を感じた時に来院してもらうようにし、経済的な負担もかからないように気軽に通院をしてもらった。少しでも重症化するのであれば医師に診てもらう事も念頭にしている。
本症例の患者とは6年以上の長い付き合いであり、20歳の時から体のメンテナンス(整体)をしている。患者は若くして関節リウマチの診断を受け、現在は寛解しているが、時々、関節の軽度な強張りや口腔内乾燥など、自己免疫疾患のような症状が現れている。今回のAAもその影響が強いと思われる。
当院から一言
円形脱毛症に対する鍼灸治療は科学的な検証がまだまだ不十分ではありますが、状態によっては改善した報告も少なくありません。今回は鍼灸治療の開始から発毛が顕著であったため、効果があったと言える可能性はあります。
病気は「気が病む」と書き、「病は気から」という言葉があります。この言葉は一般的に「病気は気持ちの問題」というふうに捕らえられているように感じますが、そうではなく、私は「気の乱れ(不足)によって病が生じる」と思っております。そして人間は、その気の乱れが体に状態として現れてくれるのです。鍼灸治療というのは、この現れた様々な情報を元に全体をみて、生体の不均衡を整えることを得意とします。
今回の症例にしても、患者の日々の頑張り過ぎから気が乱れ、一部の臓に負担がかかり、それが熱化(オーバーヒート)して熱邪となり、熱の特性で上昇した後に風邪が生まれて頭部が傷つけられたと考えられます。
今後も、少しでも良い方向へ向かう手助けとなれば幸いです。
円形脱毛症(AA)について
AAはよく知られた疾患ではありますが、原因は未だにはっきりと分かっていません。考えられる原因としては、精神的ストレス、内分泌異常、自己免疫疾患などがあげられ、病態は毛組織に対する自己免疫機序説が有力と考えられています。これらの原因を背景にして、疲労や感染症など肉体的、精神的ストレスが引き金となって発症するとされています。
また今回の患者様のように、別の病気(甲状腺機能や膠原病)が原因で二次的な脱毛が生じている場合もありますので、脱毛に気がついたら早めに皮膚科の受診をお勧めします。
中医学からみた脱毛症
中医学では脱毛症を「脱髪」、「髪堕」などといい、病証として血熱生風、陰血虚損、気血両虚、血瘀などが原因で脱毛が起こるとされています。
脱毛症で鍼灸の治療対象とされているのは円形脱毛症と男性型脱毛症です。円形脱毛症では程度が軽いもので、比較的早い段階から対処ができると効果的です。
コメントを残す