臨床医学各論
次の文で示す症例について、2つの問いに答えよ。
「55歳の女性。2か月前から背部の鈍痛が続いていたが放置していた。発熱はないが、食欲不振、体重減少、倦怠感がある。」
問題① 最も疑われる疾患はどれか。
1.子宮筋腫
2.尿路結石
3.腎盂腎炎
4.膵臓癌
問題② 行うべき検査で最も適切なのはどれか。
1.腹部超音波検査
2.尿沈渣
3.血液像(白血球分画)
4.腹部エックス線検査
②回答→1
【①解説】
問題文の「背部の鈍痛」は、選択肢の中ではどれも起こりうる症状で、その上で疑える症状を絞るような問題である。少ないキーワードであるが、「体重減少」は一つのポイントで、拒食症、糖尿病、甲状腺疾患、消化器系疾患、悪性腫瘍などでみられる。選択肢での子宮筋腫や尿路結石、腎盂腎炎では顕著な「体重減少」は見られにくく、膵臓癌での全身症状として体重減少はみられる。また「放置していた」のワードも膵臓癌のポイントである。以上を踏まえて、消去法でも、膵臓癌が最も疑える疾患といえる。
選択肢の症状を確認しておこう。
1.子宮筋腫
子宮筋腫のある約半数の患者は無症状である事が多い。ただし、部位や大きさ、筋腫の数などによって症状は様々である。症状としては、過多月経、不正性器出血、月経困難症、下腹部痛、腰痛、疝痛などがあり、筋腫が骨盤内臓器を圧迫すると排便異常や排尿異常なども起こり、また不妊症や不育症の原因ともなる。
2.尿路結石
尿路結石の場合、病痛発作、血尿、結石排出がおもな症状である。腰背部から下腹部に放散痛が現れるが、これも激痛である。他にも尿意切迫感、残尿感、頻尿などの膀胱刺激症状、悪心・嘔吐・ 冷や汗などの自律神経症状を伴う事も多い。
3.腎盂腎炎
感染症であるため、発熱、悪寒、戦慄などの全身症状がみられるはずである。問題文では、そのような記載は無いので、腎盂腎炎は考えにくい。他にも叩打痛(肋骨脊柱角・CVA)、腰痛、膿尿を呈する。
※慢性腎盂腎炎の場合、非活動期では自覚症状は殆ど無く、患者は、微熱、全身倦怠感、食欲不振などの不定愁訴を訴える。
4◯膵臓癌
膵臓癌は発生した部位により症状の出現に差がみられる。総胆管は十二指腸に開回する前に膵頭部を貫いているので、その近傍に発生した膵頭部癌では比較的早期に閉塞性黄疸の症状が現れる。そのほかの部位では一般的に進行するまで無症状のことが多い。初期には食欲不振、悪心・嘔吐などの不定愁訴、あるいは上腹部痛、背部痛がみられるが、軽微なためそのまま放置されることが少なくない。進行すると下痢、体重減少、黄疸、褐色尿が出現する。さらに進行したものでは、二次性糖尿病による症状 (口渇、多尿、体重減少)がみられることもある。
【②解説】
膵臓は後腹膜腔にあるので、触診で腫瘤を触れるのはかなり進行してからであ る。膵癌が疑わしい場合は積極的に腹部超音波検査、CT検査、MRI検査を行って病変部を検索する必要がある。内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)は上部消化管内視鏡を用いて十二指腸から膵管を造影する検査であり、癌による膵管の狭窄・閉塞や癌より末梢の膵管の拡張を描出することができる。MR胆管膵管造影 (MRCP)検査でも膵管の変化をとらえることができるようになり、内視鏡を使わない楽な方法として用いられるようになっている。しかしそれらの方法を駆使して腫瘤があることがわかっても、悪性か否かを判定することができず、試験開腹で腫瘍組織を採取することもまれではない。治療法の選択には局所の浸潤度も重要であり、血管造影検査も行われる。血清腫瘍マーカーとしてCA19-9がよく知られており、特異性が高い。CEAも上昇することがあ る。アミラーゼ値、リパーゼ値は参考とならない。
引用:東洋療法学校協会編 臨床医学各論 第2版
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