我が家で実際にあった「ちょっといい話」

ジョーくん

読んだら拍手ボタンを押してね٩( ᐛ )و

おしらせ

  • 9月は不定休になります。

カレンダーが表示されない場合は、 こちらから営業日カレンダーをご確認ください

今日のブログ

夜。

私はいつものように息子を抱き上げて、洗面所へ向かった。

寝る前の歯磨きの時間である。

まだ自分で上手に歯を磨ける年齢ではないので、僕が抱っこして連れていき、磨いてやる。

一日の終わり。

リビングの明かりは少し落としてあって、家の中には、もうすぐみんなが寝るんだという静かな空気が流れている。

こういう時間が、私は案外好きだ。

昼間はバタバタしている。

仕事があって、家事があって、子どもは走り回って、泣いたり笑ったり、よく分からない理由で怒ったりする。

けれど夜になると、少しだけ時間の流れが遅くなる。

息子を抱いて洗面所まで歩く、ほんの数メートル。

そんな何でもない時間に、

「ああ、こういう日々も、いつか終わるんだろうな」

などと思ったりする。

今は抱っこしなければ届かない洗面台も、あと何年かすれば、自分で歯ブラシを取るようになる。

そしてもっと大きくなれば、歯磨きどころか、一緒に洗面所へ行くことすらなくなる。

子育てというのは、不思議なものだ。

毎日は慌ただしいのに、過ぎてしまえばきっと一瞬なのだと思う。

そんなことを、もちろんそのときは一ミリも考えていなかった。

僕はただ、「さあ、歯磨くで」と言いながら洗面台の前に立った。

洗面台には、いつものようにコップが置いてある。

その中に、大人用の歯ブラシが二本。

僕と妻のものだ。

そして、その横に小さな子ども用の歯ブラシが一本。

いつもの光景である。

僕は息子を片腕で抱いたまま、その小さな歯ブラシに手を伸ばした。

そのときだった。

奥に、もう一本あることに気づいた。

小さな歯ブラシ。

子ども用である。

「ん?」

僕は手を止めた。

二本ある。

そんなことは、これまで気にしたことがなかった。

色違いだった。

一本は、普段見覚えがあるような気もする。

もう一本は、水色だった。

どっちや。

ほんの数秒、考えた。

妻を呼んで聞こうかとも思った。

しかし、たかが歯ブラシである。

どちらも子ども用。

サイズも似ている。

毛先も普通。

見たところ、特に変わったところはない。

「まあ、どっちでもええやろ」

僕は奥にあった水色の歯ブラシを取った。

甘い味のする歯磨き粉を少しだけつける。

息子を抱え直す。

「はい、アーン」

当然、素直に口など開けない。

顔を背ける。

笑う。

舌を出す。

歯ブラシを噛む。

逃げようとする。

それをこちらも笑いながら追いかける。

前歯。

奥歯。

反対側。

上。

下。

まだ小さな口の中を、水色の歯ブラシが行ったり来たりする。

「もうちょいやで」

嫌がる息子。

なんとか口を開けさせる僕。

親と子の、毎晩繰り返される小さな攻防だ。

ようやく磨き終えた。

「はい、おしまい」

息子は解放されたような顔をした。

その夜も、そんなふうに何事もなく過ぎていった。

そして寝る前。

ふと思い出した。

僕は妻に聞いた。

「なあ」

「ん?」

「洗面所に子どもの歯ブラシ、二本あったやん」

「うん」

「普段って、どっち使ってるん?」

妻は一瞬、僕の顔を見た。

そして、笑った。

なんというか。

優しい笑顔だった。

家族というものは、長く一緒にいると、言葉を交わさなくても分かり合える瞬間がある。

相手が何を考えているのか。

何を伝えようとしているのか。

表情ひとつで分かる。

夫婦というのは、そうやって少しずつ、お互いを理解していくものなのかもしれない。

妻は笑顔のまま言った。

「水色の歯ブラシは、ウンコ取るやつやで」

……。

僕は少し考えた。

「ウンコ?」

「うん。オムツからはみ出して服についたとき、洗濯する前にそれでこすってる」

なるほど。

つまり。

息子が盛大にハミウンしたとき。

ズボンや肌着についたウンチを、洗濯機に入れる前にゴシゴシするための歯ブラシ。

我が家における、

ウンコ専用ブラシ。

それが。

水色。

数時間前。

僕はその水色の歯ブラシを手に取り。

歯磨き粉をつけ。

愛する息子に、「アーン」と言い。

前歯から奥歯まで。

念入りに磨いた。

僕は静かに、隣で眠り始めた息子を見た。

すまない。

息子よ。

父は今日、

お前の歯を磨いた。

ウンコ磨きで。

コメントを残す

実名が公開されることはありません。

ABOUT US
koji(トレ​イン治療院 院長)はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師|国際中医専門員
大阪で治療院を開業して12年。 体は、その人の生き方や時間の積み重ねが静かに現れる場所だと感じています。 中医学を土台に、身体だけでなく心や生活の流れまで含めて整えていく。 そんな治療を大切にしています。 ブログでは、臨床の中での気づきや、体と向き合うための小さなヒントを、自分なりの言葉で書き残しています。 読んだ方の毎日が、少しでも軽くなれば嬉しい。
Back to top