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今日のブログ
夜。
私はいつものように息子を抱き上げて、洗面所へ向かった。
寝る前の歯磨きの時間である。

まだ自分で上手に歯を磨ける年齢ではないので、僕が抱っこして連れていき、磨いてやる。
一日の終わり。
リビングの明かりは少し落としてあって、家の中には、もうすぐみんなが寝るんだという静かな空気が流れている。
こういう時間が、私は案外好きだ。
昼間はバタバタしている。
仕事があって、家事があって、子どもは走り回って、泣いたり笑ったり、よく分からない理由で怒ったりする。
けれど夜になると、少しだけ時間の流れが遅くなる。
息子を抱いて洗面所まで歩く、ほんの数メートル。
そんな何でもない時間に、
「ああ、こういう日々も、いつか終わるんだろうな」
などと思ったりする。
今は抱っこしなければ届かない洗面台も、あと何年かすれば、自分で歯ブラシを取るようになる。
そしてもっと大きくなれば、歯磨きどころか、一緒に洗面所へ行くことすらなくなる。
子育てというのは、不思議なものだ。
毎日は慌ただしいのに、過ぎてしまえばきっと一瞬なのだと思う。
そんなことを、もちろんそのときは一ミリも考えていなかった。
僕はただ、「さあ、歯磨くで」と言いながら洗面台の前に立った。
洗面台には、いつものようにコップが置いてある。
その中に、大人用の歯ブラシが二本。
僕と妻のものだ。
そして、その横に小さな子ども用の歯ブラシが一本。
いつもの光景である。

僕は息子を片腕で抱いたまま、その小さな歯ブラシに手を伸ばした。
そのときだった。
奥に、もう一本あることに気づいた。
小さな歯ブラシ。
子ども用である。
「ん?」
僕は手を止めた。
二本ある。
そんなことは、これまで気にしたことがなかった。
色違いだった。
一本は、普段見覚えがあるような気もする。
もう一本は、水色だった。
どっちや。
ほんの数秒、考えた。
妻を呼んで聞こうかとも思った。
しかし、たかが歯ブラシである。
どちらも子ども用。
サイズも似ている。
毛先も普通。
見たところ、特に変わったところはない。
「まあ、どっちでもええやろ」
僕は奥にあった水色の歯ブラシを取った。
甘い味のする歯磨き粉を少しだけつける。
息子を抱え直す。
「はい、アーン」
当然、素直に口など開けない。
顔を背ける。
笑う。
舌を出す。
歯ブラシを噛む。
逃げようとする。
それをこちらも笑いながら追いかける。
前歯。
奥歯。
反対側。
上。
下。
まだ小さな口の中を、水色の歯ブラシが行ったり来たりする。
「もうちょいやで」
嫌がる息子。
なんとか口を開けさせる僕。
親と子の、毎晩繰り返される小さな攻防だ。
ようやく磨き終えた。
「はい、おしまい」
息子は解放されたような顔をした。
その夜も、そんなふうに何事もなく過ぎていった。
そして寝る前。
ふと思い出した。
僕は妻に聞いた。
「なあ」
「ん?」
「洗面所に子どもの歯ブラシ、二本あったやん」
「うん」
「普段って、どっち使ってるん?」
妻は一瞬、僕の顔を見た。
そして、笑った。
なんというか。
優しい笑顔だった。
家族というものは、長く一緒にいると、言葉を交わさなくても分かり合える瞬間がある。
相手が何を考えているのか。
何を伝えようとしているのか。
表情ひとつで分かる。
夫婦というのは、そうやって少しずつ、お互いを理解していくものなのかもしれない。
妻は笑顔のまま言った。

「水色の歯ブラシは、ウンコ取るやつやで」
……。
僕は少し考えた。
「ウンコ?」
「うん。オムツからはみ出して服についたとき、洗濯する前にそれでこすってる」
なるほど。
つまり。
息子が盛大にハミウンしたとき。
ズボンや肌着についたウンチを、洗濯機に入れる前にゴシゴシするための歯ブラシ。
我が家における、
ウンコ専用ブラシ。
それが。
水色。
数時間前。
僕はその水色の歯ブラシを手に取り。
歯磨き粉をつけ。
愛する息子に、「アーン」と言い。
前歯から奥歯まで。
念入りに磨いた。
僕は静かに、隣で眠り始めた息子を見た。
すまない。
息子よ。
父は今日、
お前の歯を磨いた。
ウンコ磨きで。





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