

「飲めばドカンと痩せる!」そんなイメージで手に取られがちな防風通聖散。手軽にダイエットができる魔法の薬だと期待している方もいるかもしれませんね。しかし、漢方薬はあなたの体質に合ってこそ、その真価を発揮するものです。
今回は、医薬品販売員の資格も持つ私が、ダイエット目的で防風通聖散を検討しているあなたへ、ちょっと厳しいけれど大切な真実と、その正しい向き合い方についてお伝えします。
もくじ
漢方薬は「養生」が土台。防風通聖散も例外ではありません。
まず大前提として知ってほしいのは、漢方薬は日々の「養生」(食事、運動、睡眠など、生活習慣を整えること)があってこそ、その真価を発揮しやすいということです。養生がおろそかでは、どんなに良い漢方薬も効果は限定的です。防風通聖散も例外ではありません。生活習慣の改善なくして、漢方薬だけに頼るダイエットは、効果が期待できないどころか、かえって体調を崩す原因にもなりかねません。
防風通聖散はどんな薬?
防風通聖散は、漢方でいう「解表(げひょう)」「清熱(せいねつ)」「攻下(こうげ)」という3つの働きを併せ持つ漢方薬です。
簡単に言うと、体の表面の邪を取り除き、体内の熱を冷まし、便通を良くして体内の不要なものを排出する作用があるということです。多くの生薬が組み合わさり、発汗、便通促進、炎症抑制、利尿、血行促進、胃腸を整えるなど、多様な働きをします。単に「代謝を上げて痩せる」という単純なものではないことがお分かりいただけるかと思います。
こんな方は要注意! 防風通聖散の禁忌・注意点
防風通聖散は、誰にでも合う薬ではありません。特に、以下のような方は服用を避けるべきです。
- 妊婦の方:胎児への影響がある可能性があるため、服用は絶対に避けてください。
- 「気血不足(きけつぶそく)」の方:漢方でいう「気」や「血」が不足している状態の人には禁忌とされています。体が虚弱な方や、貧血気味の方などは注意が必要です。
また、健康で元気な人が飲んでも悪影響はないものの、特別なメリットもないと考えることもできます。単に便秘が気になるだけであれば、便秘に特化した漢方薬を服用する方が、より効果を実感できる可能性が高いでしょう。
中医学の視点から見た防風通聖散の適応
では、中医学の教科書では、防風通聖散はどのような人に用いる方剤とされているのでしょうか。
中医学の教科書: 主治外感风邪、内有蕴热、表里皆实之证。常见症状包括恶寒壮热、头痛咽干、小便短赤、大便秘结等。也可用于治疗多种病症,如感冒、皮肤病、中风、肥胖等。
日本語訳: 「外から風邪(ふうじゃ)を受けて体内に熱がこもり、体の表面も内部も充実している実証の人」が主な治療対象となります。一般的な症状としては、悪寒と高熱、頭痛と喉の乾燥、尿量が少なく色が濃い、便秘などが挙げられます。また、感冒、皮膚病、中風(脳卒中など)、肥満といった様々な病症にも応用されます。
中国の臨床では、具体的に以下のようなケースで防風通聖散が応用されています。
いかがでしょうか? あなたはこれらの症状に当てはまりますか?
日本における防風通聖散の現状と「エビデンス」について
中国の臨床では肥満への応用がありますが、日本では比較的痩せている方でも服用しているケースが見受けられます。これは、漢方薬服用に際し、個人の体質「証(しょう)」を総合的に判断する中医学の考え方が、必ずしも十分に浸透していない現状が関係しているかもしれません。
「防風通聖散にエビデンスはあるのか?」という疑問ですが、結論から言うと、科学的根拠(エビデンス)があるとされる研究は複数存在します。特に、肥満やメタボリックシンドロームに関連する症状への効果について、臨床試験や基礎研究が進められています。
- 体重・体脂肪の減少:臨床研究で体重やウエストサイズ、特に内臓脂肪の減少が報告されています。
- 代謝の改善:体が脂肪をエネルギーとして使いやすくなることや、腸内環境を介した糖代謝改善作用も指摘されています。
- 高血圧・糖尿病の改善:肥満を伴う高血圧症患者において、血圧や糖脂質代謝の改善、動脈硬化の原因となる血圧変動性の改善に寄与する可能性も示唆されています。
これらのエビデンスは有効性を示すものですが、重要なのは、防風通聖散が「実証」で「体に熱がこもり、排泄が必要な状態」の方に特に適しているという点です。本来必要のない方が服用すると、体への負担になったり、期待される効果が得られないばかりか、かえって体調を崩す可能性もあります。特に、体が冷えやすい方、胃腸が弱い方、貧血気味の方などは注意が必要です。
ダイエットは、健康的な食生活と適度な運動が基本です。漢方薬は、そのサポート役として活用できるものですが、それだけで劇的に体質が変わるわけではありません。「飲むだけで劇的に痩せる」といった夢の薬ではないことを理解しておきましょう。
ご自身の体と向き合い、適切な方法でダイエットに取り組みましょう。安易な自己判断での服用は避け、もし漢方薬の力を借りたいと考えるなら、必ず専門家に相談し、ご自身の「証」に合った漢方薬を選んでもらうようにしてくださいね。
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