東洋医学臨床論
「27歳の女性。月経が始まる数日前から頭痛やめまいが起こり、乳房に脹痛がある。不安やイライラがあるが月経開始と共に症状は消失する。不正性器出血や病的帯下はみられない。舌質は淡紅、舌苔は厚、脈は弦。」
①最も考えられる疾患はどれか。
1 子宮内膜症
2 月経前緊張症
3 月経困難症
4 子宮筋腫
②病証に基づいた治療方針で最も適切なのはどれか。
1 湿熱を除く。
2 肝血を補う。
3 気滞を除く。
4 陽気を補う。
②回答→3
【①解説】
まずは選択肢が西洋医学的疾患であるので、後半の舌脈は無視をする。
ポイントは頭痛、めまい、不安、イライラがあって月経開始と共に症状が無くなること。更には不正性器出血や病的帯下はみられないので器質的な問題の可能性は低いことから月経前緊張症が最も適切と言える。
1 子宮内膜症
子宮内膜および類似組織が子宮内膜層以外の骨盤内臓器で増殖する疾患。月経痛と不妊を主訴とする。
因みに子宮腺筋症は、子宮筋層内に子宮内膜組織を認める疾患である。
2◯月経前緊張症(月経前症候群:PMS)
月経開始前の黄体期の間に続く身体的症状で、これは月経の開始とともに消失する。症状の主体は精神緊張であり、いらいら、のぼせ、四肢の浮腫、頭痛、乳房痛、抑うつなども伴う。
3 月経困難症
月経困難症は月経に随伴して起こる下腹痛、腰痛をいう。つまり月経痛のことである。月経困難症には、機能性と器質性とがあり、機能性の成因としてはプロスタグランジン説が有力とされ、器質性(続発性)のものは、骨盤内に器質的な原因(子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、子宮頸管狭窄、骨盤内癒着、子宮奇形など)がある。
[参考 鍼灸療法技術ガイドⅡより]
大規模アンケートによると機能性月経困難症と器質性月経困難症の出現頻度は、概ね半々だそう。従って、臨床においては、両者の鑑別が非常に重要になる。
・簡易的な鑑別
問診において重要なのは初経(初潮)から月経痛が発症するまでの期間、痛みの性質・程度・部位・時期である。機能性月経困難症の場合は、一般に初経を迎えてから2〜3年前後経過した頃から発症、器質性月経困難症は、初経後5 年以上経過して発症するものが多い。その他の詳細は本書のP.300を参照あれ。
4 子宮筋腫
平滑筋線維束で構成される良性の腫瘍で、ほとんどは子宮筋層に発育する。好発年齢は40歳代である。症状は腫瘤の大きさや発生部位によって異なるが、過多月経、過長月経、月経痛、腹部腫瘤触知、貧血などがある。筋腫が大きくなり周囲臓器を圧迫すると、頻尿、排尿困難、便秘、腰痛などの症状もみられ、時には不妊や流早産の原因になる。
【②解説】
症状は頭痛、めまい、乳房脹痛、不安、イライラである。これらは肝鬱気滞証で起こりやすい。
特に月経前は肝の疏泄の変動が起こりやすい時期であり、これらの症状が出現あるいは増悪しやすいのだ。
※ 肝の疏泄機能は、 衝任脈に流れる血を女子胞(胞宮)に送り出す役割を強く担っている。
消去法でも確認しておこう。
1 湿熱の症状は全く無い。
2 肝血虚の症状は無いことも無いが強くは出ていない。例えば頭痛やめまいは肝血虚でも起こる。
4 陽虚の特徴は冷えがあるとあること。問題文では冷えの所見は無いので除外できる。
舌脈を見てみよう。
・淡舌ー気血不足、寒証
(淡舌は肝脾不和による気血生成の低下によるものかもしれない。)
・厚苔ー痰湿、食滞
(厚苔は肝脾不和による食滞かもしれない。)
・弦脈ー肝胆病、痛証、痰飲
(弦脈は肝鬱によるものと考えられる。)
国試的には月経前、乳房脹痛、イライラというワードで肝鬱気滞によるものと容易に判断できる。