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近年、テレビやSNSで「痩せる注射」として話題のマンジャロ。たしかに、多くの人がこの薬で体重を落としているのを見れば、「魔法のようだ」と感じるのも無理はありません。SNSでは使用経験者が多数登場し、その効果を語ることで、あたかも「安心安全」という無責任な安心感だけが一人歩きしているようにも見えます。
「不自然」に見える理由と、薬が助けになるケース
私のように、人体を自然の一部と捉えることを生業としている者からすると、この「薬による急激な変化」は、どこか不自然に映ることがあります。
食欲を薬でコントロールし、運動もせずに体重が落ちるというのは、身体が本来持つ自然なバランスから逸脱しているように感じるのです。
しかし、すべてを否定するつもりは毛頭ありません。人によっては、この薬が真に必要で、大きな助けとなる場合があるのも事実です。例えば、高度な肥満によって健康が著しく損なわれている方、自力での食欲コントロールが極めて困難で、精神的な負担が大きい方など、医療的な介入が不可欠なケースも存在します。
東洋医学で考える「食べすぎ」と身体の乱れ
では、私たちが「欲のままに食べ、運動も怠る」という状態を、東洋医学、特に五行思想に当てはめて考えてみましょう。
東洋医学では、人の身体も自然界の一部と捉え、「木(肝)」「火(心)」「土(脾・胃)」「金(肺)」「水(腎)」という五つの要素(五臓)が互いに影響し合い、バランスを取っていると考えます。この中で、消化吸収を司るのが「脾(ひ)」と「胃(い)」で、五行では「土(ど)」に属します。
「土」は、大地のように万物を育み、栄養を生み出す源です。脾と胃が健康であれば、食べたものから効率よくエネルギーを作り出し、身体の隅々まで栄養を行き渡らせることができます。
しかし、食べすぎや不規則な食生活、運動不足は、この「土」の機能に大きな負担をかけます。
脾と胃の機能が低下すると、体内に余分な水分や老廃物(「湿(しつ)」や「痰(たん)」と呼ばれます)が溜まりやすくなります。これらは、まさに体重増加やむくみ、だるさなどの原因となるのです。
五行で見る身体のバランスの崩れ
この状態を、五行の「相生(助け合う関係)」と「相剋(抑制し合う関係)」で見てみましょう。
私たちの食欲がコントロールできない背景には、単なる精神的な問題だけでなく、五臓のバランスの乱れがあります。特に注目したいのは、ストレスや感情を司る「肝(木)」と、消化吸収を担う「脾・胃(土)」の関係です。
本来、「肝(木)」は「脾・胃(土)」を抑制することで、その働きを適度に調整しています。しかし、ストレスなどで「肝(木)」の気が過剰になったり滞ったりすると、この抑制作用が強くなりすぎ、「脾・胃(土)」の働きを乱してしまうことがあります。これにより、消化吸収のバランスが崩れ、結果として食欲のコントロールが難しくなる、という図式が見えてくるのです。

薬の作用と「しわ寄せ」の懸念
ここで注意したいのは、薬の作用が、まさにこの「脾・胃(土)」の機能を無理に低下させているに過ぎないという点です。食欲を抑制すれば、確かに摂取カロリーは減り、体重は落ちるでしょう。しかし、これは原因となっている「肝」の乱れや、本来あるべき「脾・胃」の正常な働きを回復させるものではありません。
東洋医学では、五臓は互いに密接にリンクし合い、全体で一つの生命システムを形成していると考えます。どこか一つの臓器の機能を意図的に低下させれば、そのバランスを保とうとして、必ず他の臓器に「しわ寄せ」が来ることになります。例えば、脾胃の機能が長期的に低下すれば、そこから栄養を受け取るはずの肺(金)や心(火)にも影響が出たり、水分の代謝に関わる腎(水)にも負担がかかるなど、連鎖的な不調や障害が起きる可能性も考えられるのです。
という事は、痩せ薬の副作用は西洋医学的には吐き気や下痢といったものに限られるかもしれませんが、東洋医学的には全く関係のないと思われるところまで影響が及ぶということです。

「魔法」の先に本当に望むものは? ~心と体の調和と滲み出る魅力~
痩せる注射は、この乱れたバランスに対して、一時的に外界から介入し、身体の反応を強制的に変えるものと言えます。たしかに即効性があり、体重減少という結果をもたらしますが、これはあくまで表面的な問題を解決しているに過ぎません。
私たちは往々にして、目に見える結果や即効性に魅力を感じますが、それが真の健康や美しさをもたらすとは限りません。真の美しさや健康とは、単なる体重や体型といった外見だけでは測れない、もっと奥深いものです。それは、私たちの内面、つまり人格や思想、日々の努力、そしてそれらによって培われる生活習慣といった、より高次元なものから現れてくると私は考えます。
体の外に現れるもの、例えば体型、表情、雰囲気。これらはすべて、内面の状態が映し出されたものです。もし、生活習慣を改めることなく、薬の力で表面だけを変えようとすれば、長期的に見れば必ず「ボロ」が出てしまうでしょう。 外見が理想通りになったとしても、精神や心が置いていかれてしまい、心と体が一致しない「乖離(かいり)」が生じる可能性があります。
東洋医学で言えば、これは「陰陽のバランスが崩れ、陰(内面、精神)と陽(外面、身体)が離れていってしまう」状態です。心と体の調和が失われれば、それはまた別の不調や病気へとつながる可能性があります。
極端な例かもしれませんが、薬を飲んでダイエットをした女性と、自分を律して体重を減量した女性が並んでいるとします。外見はどちらも美しく、違いはないかもしれません。しかし、実際に接して話したり関わっていくと、この二人の間に言葉では言い表せない「魅力」の差を感じるような気が私にはします。
真の美と健康は、内面から築き上げるもの
薬が助けになる場合があることを認めつつも、私たちは「注射するだけで痩せる」という安易な解決策に飛びつく前に、立ち止まって考えるべきです。
本当の健康と美しさは、「土(脾・胃)」を労わり、バランスを崩す「木(肝)」の乱れを整えるといった、根本的な生活習慣の改善、そして自身の内面と向き合う努力を通じて、五臓全体の調和を取り戻すことではないでしょうか。
それは、決して楽な道ではないかもしれません。しかし、自身の食欲を理性でコントロールしようと試み、身体の声に耳を傾け、運動で汗を流す。そうした一つ一つの積み重ねこそが、一時的な「魔法」ではなく、揺るぎない「本物の美しさ」と「心身の健康」を築き上げてくれると信じています。
この薬を使うこと自体が、人としてダメだと言いたいわけではありません。しかし、その使い方には十分注意していただきたいと思います。あなたにとっての真の健康と美しさとは何でしょうか? ぜひ一度、ご自身の心と体とじっくり向き合ってみてください。
遠回りが一番の近道かもしれません。
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