6コマ劇場 第十一話

TRAIN CLINIC 6コマ劇場

第11話

夏なのに、どうして身体が冷えるの?

外では、身体の熱を逃がそうとする。
冷房の中では、今度は熱を守ろうとする。
現代の夏、身体は正反対の仕事を何度も繰り返しています。

「夏になってから、手足が冷たい」
「身体が重く、胃腸の調子もよくない」
「足は冷たいのに、顔や上半身はほてる」

こうした状態を、単に「冷房で身体が冷えた」と考えるだけでは、
夏の身体に起きていることの全体像は見えてきません。

皮膚で温度を感じ、発汗量を変え、血管を広げたり縮めたりしながら、
身体は深部の体温を守るために、休むことなく環境へ適応しています。

6コマ劇場 第11話では、
現代医学と中医学の両方から、
「夏なのに冷える身体」の仕組みを掘り下げます。

まずは、6コマでご覧ください。

6コマ劇場 第11話 夏なのにどうして身体が冷えるの 1枚目
6コマ劇場 第11話 夏なのにどうして身体が冷えるの 2枚目
6コマ劇場 第11話 夏なのにどうして身体が冷えるの 3枚目
6コマ劇場 第11話 夏なのにどうして身体が冷えるの 4枚目
6コマ劇場 第11話 夏なのにどうして身体が冷えるの 5枚目
6コマ劇場 第11話 夏なのにどうして身体が冷えるの 6枚目

この漫画で本当に伝えたかったこと

夏の冷えは、単に身体の温度が下がっているという話ではありません。

炎天下では、身体は皮膚の血流を増やし、汗を出して、
体内の熱を外へ逃がそうとします。

ところが、その直後に冷房の効いた室内へ入ると、
今度は熱を逃がしすぎないように、
発汗を抑え、皮膚の血流を変化させる必要があります。

つまり現代の夏、身体は一日の中で何度も、
「熱を逃がす仕事」と「熱を守る仕事」を切り替えています。

よく「自律神経が乱れている」と表現されますが、
自律神経が突然壊れてしまうわけではありません。

むしろ、環境が変わるたびに身体を適応させようと、
正反対の調節を何度も要求されている状態と考える方が、
実際の身体の働きに近いでしょう。

夏の冷えは、身体が冷えているだけではありません。
暑さから熱を逃がし、冷房から熱を守る。
正反対の仕事を繰り返している身体からのサインです。

身体は「冷えてから」反応するのではない

体温調節というと、身体の内部の温度が変化してから、
脳が対応を始めるように思われるかもしれません。

しかし身体は、深部体温が大きく変化するのを待っているわけではありません。

皮膚には、温かさや冷たさを感じ取る温度受容器があります。
皮膚で受け取った温度情報は神経を通じて中枢へ伝えられ、
発汗や皮膚血流などの調節に利用されます。

つまり皮膚は、単なる身体の表面ではありません。

外気の変化をいち早く察知し、
「このままでは熱を奪われるかもしれない」
「このままでは体温が上がるかもしれない」と、
身体の内部へ知らせるセンサーでもあるのです。

冷房の風が首や腕、脚へ直接当たったとき、
深部体温が大きく下がっていなくても、
私たちは「寒い」「身体が冷えた」と感じることがあります。

これは、皮膚温の変化を身体が素早く察知しているためです。

身体は、冷えきってから慌てて対処するのではありません。
皮膚で外気を感じた段階から、
深部の体温を守る準備を始めています。

手足が冷たいのは、身体を守る反応でもある

手足の冷えがあると、一般には「血行が悪い」と説明されることが多いでしょう。

もちろん血流は関係しています。
しかし、血流が減っている理由まで考えることが大切です。

寒さを感じた身体は、皮膚の血管を収縮させ、
皮膚や手足から外へ逃げる熱を減らそうとします。

血液は酸素や栄養だけでなく、熱も運んでいます。

そのため、手足へ送る温かい血液を一時的に減らすことで、
心臓や脳、内臓など、身体の中心部の温度を守ろうとするのです。

つまり手足の冷えは、単なる故障ではなく、
身体の中心を守るための防御反応として起こる場合があります。

ただし、この反応が長く続いたり、強く出たりすると、
手足の冷たさ、こわばり、感覚の違和感などを自覚しやすくなります。

手足の冷えは、身体の熱がなくなったというより、
限られた熱をどこへ配分するかという、
身体の判断が表れていることがあります。

なぜ、冷え・だるさ・胃腸の不調が一緒に起こるのか

夏の不調では、冷えだけでなく、
身体の重だるさ、食欲低下、軟便、便秘、眠りの浅さ、
肩や首のこわばりなどが一緒に現れることがあります。

これらを一つの原因だけで説明することはできません。

まず、暑い環境では体温を下げるために皮膚血流が増え、
発汗によって水分や電解質が失われます。

発汗量が増えているのに水分や塩分の補給が追いつかなければ、
循環する血液量が減少し、だるさや立ちくらみ、
動悸などを感じやすくなることがあります。

また、自律神経は体温調節だけでなく、
心拍、血圧、消化管の運動、胃液や腸液の分泌などにも関係しています。

睡眠不足や精神的な緊張が続けば、
胃腸の動きや食欲にも影響が及ぶことがあります。

さらに、暑さによる食欲低下で食事量が減り、
冷たい飲み物だけで空腹を満たす状態が続けば、
エネルギーやたんぱく質、鉄分などが不足する可能性もあります。

夏のだるさをすべて「自律神経の乱れ」とまとめてしまうと、
脱水、栄養不足、睡眠不足、貧血など、
本当に見直すべき原因を見落としてしまうことがあります。

冷えているのに、ほてるのは矛盾ではない

「足先は冷たいのに、顔だけ熱い」
「身体は寒いのに、頭や背中には汗をかく」

一見すると矛盾しているようですが、
身体のすべての場所が同じ温度、同じ血流になるわけではありません。

手足の皮膚血管が収縮して末端への熱の移動が減る一方で、
顔や上半身では血管の拡張や発汗が起きていることもあります。

また、温度の感じ方は、実際の皮膚温だけでなく、
皮膚温がどのくらいの速さで変化したか、
どの範囲が冷やされたかによっても変わります。

女性の場合は、生理周期や更年期に伴うホルモン変動が、
皮膚血流、発汗、ほてりの感じ方に関係することもあります。

そのため、冷えとほてりが同時にあるからといって、
すぐに「自律神経失調症」と決めつけることはできません。

冷える場所、ほてる場所、発汗の有無、起こりやすい時間帯、
月経、睡眠、食事、精神的な緊張などを分けて確認することが大切です。

身体は一枚の板のように、均一に冷えたり温まったりしません。
部位ごとの血流と熱の配分が違うからこそ、
「冷え」と「ほてり」が同時に起こることがあります。

交感神経は、悪者ではありません

自律神経の話では、しばしば、
「交感神経は緊張させる悪い神経」
「副交感神経はリラックスさせる良い神経」
という説明が使われます。

しかし、本来どちらも身体を守るために必要な働きです。

寒さを感じたときに皮膚の血管を収縮させたり、
立ち上がったときに血圧が下がりすぎないよう調節したり、
運動時に心拍数を増やしたりするためには、交感神経の働きが欠かせません。

一方、食事の消化、休息、睡眠などには、
副交感神経系の働きが深く関係します。

大切なのは、どちらか一方を強くすることではありません。

活動するときには活動でき、休むときには落ち着ける。
暑いときには熱を逃がし、寒いときには熱を守れる。
その場面に適した反応へ切り替えられることが重要です。

自律神経を整えるとは、
交感神経を止めることではありません。
必要なときに働き、休むときに休める状態を目指すことです。

夏なのに冷える――中医学ではどう考える?

中医学では、夏の不調を「暑さ」だけでは考えません。

夏は陽気が盛んになり、身体の働きが外へ向かいやすく、
発汗が増える季節と考えられています。

一方、現代の夏には、古代にはなかったほど強力な冷房環境があります。

外では高温と湿気にさらされ、汗をかく。
室内では冷たい風にさらされる。
さらに冷たい飲食物をとる機会も増える。

中医学的に見ると、現代の夏は、
「暑」「寒」「湿」が同時に身体へ影響しやすい、
複雑な季節だと考えることができます。

ここでいう暑・寒・湿は、温度計で測る暑さや寒さだけではありません。

気候や生活環境が身体へ及ぼす影響を整理した、
中医学独自の考え方です。

暑さで汗をかき続ければ、身体を潤す「津液」が失われ、
同時に「気」も消耗しやすいと考えます。

これを中医学では、暑さが津液を傷つけ、
気を消耗しやすい性質として説明します。

そこへ冷房や冷たい飲食物による「寒」の影響が加わり、
湿度や水分代謝の停滞による「湿」が重なると、
冷え、重だるさ、食欲不振、軟便、むくみなどが
同時に現れやすくなると考えます。

中医学から見る夏の冷えは、寒さだけの問題ではありません。
暑さで消耗し、汗で潤いを失い、
冷房と冷たい飲食物で身体の内外を冷やしている状態です。

夏の冷えと「脾胃」の関係

中医学でいう「脾胃」は、
現代医学の脾臓や胃だけを指す言葉ではありません。

食べ物や飲み物から必要なものを取り入れ、
気や血、津液の材料をつくり、
全身へ運ぶ働きを含んだ概念です。

夏は暑さによって食欲が低下しやすいうえに、
水分を多くとり、冷たい食べ物へ偏りやすくなります。

中医学では、脾胃は過度な冷えや湿の影響を受けると、
飲食物を消化し、必要なものを運ぶ働きが弱くなると考えます。

すると、食欲不振、胃もたれ、軟便、下痢、むくみ、
頭や身体の重だるさなどが現れることがあります。

また、食事から十分な気血をつくりにくい状態が続けば、
手足まで温かさを届ける力も不足しやすくなります。

そのため夏の冷えでは、冷えている手足だけでなく、
食欲、便通、腹部の冷え、水分のとり方なども重要な手がかりになります。

ただし、これは中医学における身体の見方であり、
現代医学の診断や検査に置き換わるものではありません。

鍼灸は、自律神経にどう働きかけるのか

鍼灸は「ツボから不思議な力を送り込むもの」ではありません。

現代医学的には、鍼による刺激を皮膚、筋膜、筋肉などに存在する
感覚神経が受け取り、その情報が末梢神経から脊髄、脳へ伝えられることで、
神経系の反応が変化する可能性が研究されています。

鍼刺激と自律神経の関係については、
心拍数、血圧、皮膚温、皮膚電気活動、筋交感神経活動、
心拍変動など、さまざまな指標を用いた研究があります。

さらに基礎研究では、視床下部、中脳水道周囲灰白質、延髄、
孤束核など、自律神経調節に関わる脳領域が、
鍼刺激への反応に関係する可能性が検討されています。

ただし、どの場所へ、どの深さで、どの程度の刺激を行うかによって、
神経反応が同じになるとは限りません。

刺激の強さ、施術部位、患者さんの体調、疲労や緊張の状態によっても、
反応が変わる可能性があります。

したがって、鍼をすれば必ず副交感神経が高まり、
誰でも同じようにリラックスするとは言えません。

鍼灸は、自律神経を外から直接操作するものではありません。
身体へ適切な感覚刺激を届け、
神経系がどのように応答するかを利用する施術です。

鍼灸と心拍変動の研究から分かること

鍼刺激と自律神経の関係を調べる研究では、
「心拍変動」がよく使われます。

心拍変動とは、心臓が完全に一定の間隔で動いているのではなく、
一拍ごとの間隔にわずかな揺らぎがあることを利用した指標です。

呼吸や自律神経活動などによって心拍間隔は変化するため、
心臓に関係する自律神経調節を評価する一つの方法として使われています。

鍼治療と心拍変動を調べた系統的レビューやメタ解析では、
実際の鍼治療が偽鍼と比較して、
副交感神経活動を高める方向へ影響する可能性が示されています。

一方で、研究ごとに対象者、疾患、ツボ、刺激量、施術時間、
偽鍼の方法、心拍変動の測定条件などが異なっています。

また、心拍変動は主として心臓に関係する自律神経調節の指標であり、
胃腸、発汗、皮膚血流、体温調節を含む全身の自律神経機能を、
一つの数値だけで完全に表すものではありません。

現時点では、鍼刺激が自律神経活動へ影響を与える可能性はありますが、
「鍼灸をすれば自律神経が正常化する」とまでは断定できません。

研究の可能性と限界の両方を知ったうえで、
一人ひとりの症状や体調に合わせて活用することが大切です。

参考文献:
鍼治療と副交感神経活動に関する系統的レビュー・メタ解析
鍼治療が心拍変動へ与える影響に関する系統的レビュー
鍼刺激時の心拍変動と自律神経機能を評価した日本の研究
鍼灸と自律神経系の作用機序に関するレビュー
中国における鍼刺激と中枢自律神経機構に関するレビュー

トレイン治療院では、冷えている場所だけを見ません

夏の冷えがあるからといって、
冷たい手足を強く温めればよいとは限りません。

トレイン治療院では、冷えを感じる場所だけでなく、
その背景にある身体全体の状態を確認します。

たとえば、次のようなことをお聞きします。

・冷えるのは手、足、腹部、腰のどこか
・一日中冷たいのか、冷房の中だけで起こるのか
・汗を多くかくのか、ほとんどかかないのか
・顔や上半身のほてりがあるか
・食欲、便通、胃もたれなどの変化があるか
・睡眠時間や眠りの深さに変化があるか
・生理周期や更年期との関係があるか
・めまい、動悸、息切れなどを伴っていないか

施術では、身体の状態を確認したうえで、
マッサージや指圧で筋緊張をゆるめ、
必要に応じて整体、鍼灸、お灸などを組み合わせます。

交感神経を無理に抑え込むことや、
身体を一律に強く温めることが目的ではありません。

呼吸がしやすく、筋肉の緊張がゆるみ、
胃腸や睡眠を含めて身体が休息へ向かいやすい状態をつくること。

そして、暑さや冷房に対して身体が必要な反応を行えるよう、
一人ひとりの状態に合わせて整えていくことを大切にしています。

セルフケアは「温める」より、熱の出入りを整える

夏の冷え対策というと、腹巻き、温かい飲み物、入浴など、
身体を温める方法が中心になりがちです。

もちろん、それらが合う方もいます。

しかし夏の身体は、屋外では熱を逃がす必要があります。
何でも温めればよいわけではありません。

大切なのは、熱を増やし続けることではなく、
必要な場所から熱を逃がし、必要な場所の熱を守れるようにすることです。

冷房の風を直接当て続けない
室温だけでなく、風速や風向きも皮膚の冷え方に影響します。
特に汗をかいた直後は、首、肩、腹部、足元への直風を避けましょう。

汗で湿った衣服をそのままにしない
水分が蒸発するときには皮膚から熱が奪われます。
着替えや汗を拭くことも、立派な冷え対策です。

水分だけでなく、食事も意識する
大量に汗をかいた日は、水分だけでなく電解質や食事も必要です。
食欲が落ちているときほど、食べられる形で栄養を補いましょう。

冷たいものを禁止しすぎない
暑い日に冷たい飲み物をとること自体が悪いわけではありません。
飲んだ後に胃が重い、下痢をする、食欲が落ちる方は、
温度、量、飲む速さを調整してみてください。

入浴後に汗だくにならない
熱い湯へ長く入れば、かえって発汗や疲労が増えることがあります。
体調に合わせて、無理のない温度と時間にしましょう。

夏の冷え対策は、ただ温めることではありません。
身体が熱を逃がす場面と、熱を守る場面を見極め、
急激な変化を少なくすることがポイントです。

「夏の冷え」だけで片づけてはいけない症状

冷え、だるさ、動悸、息切れ、めまい、食欲低下などは、
冷房や寒暖差以外の原因でも起こります。

たとえば、貧血、甲状腺機能の異常、低血圧、感染症、
心臓や血管の病気、婦人科系の変化などが、
冷えや疲労感に関係することがあります。

特に、次のような症状がある場合は、医療機関へご相談ください。

・以前とは違う強い倦怠感が続く
・少し動くだけで息切れや動悸がする
・めまい、立ちくらみ、失神がある
・急な体重減少や体重増加がある
・発熱や寝汗が続く
・月経量が非常に多い
・片側の手足だけが冷たい、痛い、しびれる
・皮膚の色が白色、紫色などに変化する

症状をすべて「自律神経」や「体質」の問題として扱わず、
必要な検査や医療につなげることも、身体を丁寧に見るうえで大切です。

6コマ劇場を続けて読む

第11話では、
夏の身体が「熱を逃がす仕事」と「熱を守る仕事」を
何度も切り替えていることを描きました。

夏の冷えは、単に温めれば解決するとは限りません。
発汗、血流、胃腸、睡眠、生活環境まで含めて、
身体から届くサインを見ていくことが大切です。

次のお話は、ただいま準備中です。
公開まで、6コマ劇場の一覧ページから他のお話もご覧ください。

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